
[著者プロフィル]竹端 寛(たけばた・ひろし)/兵庫県立大学環境人間学部教授。1975年京都府生まれ。専門は福祉社会学、社会福祉学。2014年に山梨学院大学教授、18年から兵庫県立大学准教授、24年から現職。『ケアしケアされ、生きていく』、『「これくらいできないと困るのはきみだよ」?』(共著)など著書多数。(写真:竹端寛氏提供)
仕事中毒だった著者に、子どもが生まれた。家事や育児に明け暮れてクタクタになった1日を振り返り、「今日、何もできていない!」と嘆く。
この「できていない」とはいったい何なのか──。「能力主義」を深く内面化し膠着状態に陥った自分を「ケア」で乗り越えるための、対話のような読書録。
──「成功は努力あってこそ」「働かざる者食うべからず」……。社会には能力主義的な価値観が深く根付いており、われわれビジネス誌もそれをあおってきた側面がある。ただ、近年は能力主義を問い直す論調が高まっています。
能力主義だけではもう限界だよね、と社会が気づいてきた。今が時代の変節点だろう。
日本で能力主義をまともに疑い出したのは、第1章で取り上げた勅使川原真衣氏による『「能力」の生きづらさをほぐす』(2022年)が先駆けだ。25年に出た元NewsPicksパブリッシング編集長、井上慎平氏の『弱さ考』も主題は重なる。後者の版元が(ビジネス系出版社の)ダイヤモンド社であるというのも象徴的だ。
能力主義とは、能力や実績を個人に帰属させ、単一の評価軸で一元的に評価する考え方。標準化された方式で高品質なものを量産すれば成長できた時代には、うまく機能した。だが今は先が見通しにくい時代だ。刻々と状況が変わる中、試行錯誤をして新しいものを生み出す必要がある。そのとき、テストのような画一的な能力主義で個人を評価すると、人間の多様なあり方がこぼれ落ちてしまう。
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