学校で起こる問題の根本原因は「思考と関係のコリ」、研修の再構築で組織が一変する訳 組織開発コンサルタント・大野大輔氏に聞く

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

2つ目は、「関係のコリ」だ。

「これは、職場の人間関係が原因で、意見が出しにくかったり、協力体制がうまく機能しなかったりする状態を指します。『何か新しいことを提案しても、どうせみんなやらない』といったあきらめの感情や、職員会議で特定の人が反対し続けることにより、ほかの人が発言をためらうような状況などが挙げられます」

これらのコリを解消するカギが、「研修のリデザイン(再構築)」にあるという。「リデザイン」とは、「目的の問い直しをすることで、手段の再構築をする営み」を表す。

「例えば、先ほど申し上げた校内研究の意欲が低いある学校では、まず管理職と研究主任の先生と共に、先生方の日々の業務を見直しました。すると、先生方の負担が非常に大きいことがわかりました。そこで、本当に必要な業務に焦点を絞りほかの業務は削減する方針を打ち出しつつ、研修で『どのような学校にしたいか』を改めて明確にするようにしました。このように思考のコリをほぐした結果、先生方の関心が高い『子どもが主語の学びの実現』というシンプルでわかりやすい目標ができ、前向きに授業改善に取り組むことができるようになりました」

大野氏は続ける。

「また、『(業務改善などの)提案がしにくい』といった問題の根底に、職場の人間関係の凝り固まりが存在するケースもあります。このような場合は、単に『専門家を招いて話を聞く』といった一方向の研修ではなく、先生方がお互いに対話し、安心して意見を出し合えるような研修の場を設けます。それにより関係のコリがほぐれ、建設的な議論や新たなアイデアを出しやすい空気が生まれ、学校全体の改革を後押しする力となります」

研修は単に「知識を学ぶ場」ではなく、学校の課題の根本原因である「思考のコリ」や「人間関係のコリ」を解消し、学校改革を推進するためのトリガー(引き金)となる重要な場である、ということだ。

組織改革の出発点「誰も悪くない」と言うマインドセット

大野氏の活動の核となるのは、「誰も悪くない」という哲学だ。

「残業で大変な思いをしている方がたくさんいたとしても、それは個人の責任ではありません。組織内で対立が生じているように見えても、それは特定の誰かのせいではないのです」

個人の責任や特定の誰かのせいにするのではなく、組織全体の問題として捉えるべきだと大野氏は強調する。しかし、多くの現場ではその逆の状況が見られるという。

「残念ながら、私が多くの学校に入って感じるのは、『誰が悪いんだ?』という犯人探しが始まりがちだということです。『◉◉が何もしない』『△▲に伝えているのに動かない』といった声を聞くことも少なくありません。しかしそう考えてしまうと、問題はいつまで経っても解決しません」

こうした状況を打開するために、大野氏は相手の背景にまで踏み込む姿勢を提案する。

「『なぜその先生は、そう振る舞うのだろう?』『どんな不安や心配があるのだろう?』と思いを馳せ、『何か心配なことがあれば、一緒に考えさせてください』と寄り添う姿勢が大切なのではないでしょうか。そこには何かしらの原因があるはずですから」

問題の根っこは「人」ではなく、「組織の仕組みや文化」にあると捉えるということだ。

3つのフェーズで実現する学校改革

大野氏の伴走は、単なる指導やアドバイスにとどまらず、学校が自律して変革を進められるようになることを目指している。

「学校への伴走回数は多くても年間3回と設定し、『提案』『実行』『仕組み化』の3つのフェーズで伴走します。『提案』では、学校の課題の根本原因を探り、新しい取り組みを組織に提案する際のリスクを分かち合い、キックオフワークショップなどを開催して一歩を踏み出すお手伝いをします。『実行』では、出されたアイデアを現実にしていくため、システム構築を一緒に行うなど具体的なプロセスを支援します。『仕組み化』では、実行した取り組みを単発で終わらせず、組織に仕組み化し、学校が自走できるようにします。

このフェーズでは、次年度に向けての計画を立てたり、継続的な改善の仕組みを構築したりなどを通して私のサポートなしでも継続できるよう、自走を促します。ここを乗り越えれば伴走は完了です」

大切なのは、研修後も学校が自立して変革を進められること。そのため教員自身が学校の課題の根本原因を探りアイデアを出す。そのアイデアを実現するための具体的なプロセスを支援するのが大野氏の役割だ

伴走において最も大切にしているのは、「私が関わることよりも、学校が自力で問題を解決し、自律的に成長できるようになり、最終的に私が学校にとって不要になることこそが、最高の状態である」という考え方だ。

次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事