遠い外国の話と思いきや、実は似た状況が日本にもある。2018年に大阪市では全国学力テスト(全国学力学習状況調査)の結果を教員のボーナスや学校予算に反映させるという方針を市長が打ち出して、物議を醸した。
別のある地域では、全国学力テストで、成績のよくない子を欠席にしたり(平均正答率を上げるため)、教員がテスト中に教えたりする不正が報告されたこともある。4月の新学期が始まって大事な時期に何度も過去問を解かせるなど、テスト漬けにしている学校も一部にある(とりわけ、平均正答率の高い上位県ではプレッシャーが非常に強い)。
もちろん基礎学力の定着は大事だし、テストの結果がよいことにこしたことはないが、テストスコアばかりを追い求めると、教育や学びがおかしな方向にいく場合がある。子どもたちも、私たちも、いったい、何のために学んでいるのか、教育しているのか、わからなくなる。
まったく違う業界の話になるが、映画を観ながら、私は、ヤマト運輸が1970年代に宅急便を始めたときの経営術について思い出した。当時の小倉昌男社長が社内でしきりに呼びかけ、徹底したのが「サービスが先、利益は後」というメッセージだった。
利益のことばかり考えていると、社員の多くはサービスについてほどほどでよいと思うようになり、サービスの差別化ができない。すると、収入も増えず、結果としては利益も出ない。逆に、翌日配達を徹底し、宅急便がすごく便利で安心できるサービスだと認識されれば、使う人が増える。
使う人が増えると、面積の小さな範囲で集荷・配達等を効率的にできるようになるから、次第に損益分岐点を超え、利益はあとで付いてくる。こういう発想、戦略眼の鋭さについては、経営者や経営学者の中にもファンは多いし、私も小倉氏の著書『小倉昌男 経営学』(日経BP)を何度も読み返している。
映画「型破りな教室」に話を戻すと、フアレス先生の授業では、子どもたちの好奇心や学びに向かう動機づけを重視する。自学自習を進める子たちや、児童が互いに学び合う風景も増える。そうした結果、学力テストでもしっかりスコアも取れるようになる。小倉昌男さんに倣って表現するなら、「子どもの好奇心が先、テストスコアは後」だ。

あれもこれも大事、並列思考の罠
学力テストのことだけではない。私たちの周りの日本の学校教育や教育政策について、ちょっと見渡してみると、優先順位がどうなっているのか、疑問に思えることはたくさんある。
学校の働き方改革も典型例の1つと言えるだろう。文科省も、教育委員会も、校長の多くも、勤務時間(在校等時間)を短くすることに躍起になっていて、時短が目的化していないだろうか。確かに、「働き方改革を通じて、教員の負担を軽減しつつ、授業準備等に取り組めるようにして、教育の質を上げていく」ことなどとは説明されている。
だが、多くの教育委員会では勤務時間がどれだけ短くなったかが成果指標の大半を占めるし、「早く帰れ」とばかり言われて、嫌気をさしている教職員も多い。
私は、別の記事でも紹介したが、教職員の健康確保という目的を前提としつつ、先生たちが自分たちの職場をよりよくするアイデアを対話を通じて出していき、できることからやってみることを重視する。参画なしで、押し付けだけでは推進力にならないからだ。やってみてよかったという実感を得ていく中で、改善は徐々に進む。結果として、時短につながることもでてくる。
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