グロース市場の上場維持基準は、2022年のマザーズ市場からの移行の際、「上場10年経過後から時価総額40億円以上」に引き上げられた。今回の案は、「上場5年経過後から時価総額100億円以上」とさらに厳しくなる内容で、2030年以降の適用が想定されている。
私がCEOを務めるM&Aクラウドは、過去7年にわたりスタートアップのM&Aをマッチングプラットフォーム運営とアドバイザリーの両面から支援してきた。ここでは、スタートアップM&Aの現場の視点から、トレンドの背景と行方を読み解く。
成長戦略として「グループイン」を選択
数年前までのスタートアップ界隈では、起業家といえばIPOを目指すものという認識が一般的だった。しかし、数多くの先駆者たちの起業ストーリーが知られるようになり、経験豊富な連続起業家が増える中、M&Aに対する起業家の目線は変わった。事業成長の手段として、ポジティブに検討する人が増えているのだ。
M&Aが成長戦略としてクローズアップされやすいケースとして、まず挙げられるのは近いドメイン(事業活動領域)で複数社がしのぎを削っている状況だ。
プロダクト開発やマーケティングへの投資競争が避けられないため、資金力や事業立ち上げノウハウ、顧客基盤を持つ企業と組むことで、有利な立ち位置を獲得できる。
例えば人材サービスなどのHRテックの領域では、人事管理ソフト運営のHRBrainが2023年11月にスウェーデンの投資会社EQTの傘下に入り、顧客基盤の拡大やプロダクトの追加開発に取り組む体制を整えた。
ディープテックに代表される、長期の開発投資が必要な領域もM&Aと相性がよい。特に医薬品などは、開発の成功確率が低いうえ、認証取得に時間がかかり、量産体制を整えるにも巨額の投資が求められる。VCにとっては非常にハイリスクな投資先となる一方、研究開発力に優れたスタートアップには、同業の大企業などから声がかかるケースも見られる。
また、創業者視点では、会社が「0→1」フェーズから「1→10」フェーズへと移行を図るにあたり、先輩経営者の経験値を求めてM&Aを検討する事例も多い。
2024年12月、東大松尾研発AIスタートアップのAlmondoがスタンダード市場に上場するテンダへのグループインを発表した際、Almondoの伊藤代表は「1兆、2兆と数える偉大な企業を作るには、(中略)演繹的に、戦略的に考えないと見えてこない」と考えたことを自身のブログに記している。
グループインした事業会社やプライベート・エクイティ(PE)ファンドのリソースを活用し、すでに単独では望めないレベルの成長を果たしたスタートアップも多い。加えて2024年は、グループインを経てその後IPOに至る、いわゆる「スイングバイIPO」が2件出たことも大きな話題となった。
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