人口の約10%、学校でどう教える?教科書でも言及増える性の多様性「LGBTQ+」教育 児童生徒に打ち明けられたら…教員の心構え
また、小学校高学年、中高生向けに、性の多様性やLGBTQ+について教えるためのスライドと台本の教材を無償で提供している。
「活動する中で、学校の先生方がLGBTQ+や性の多様性について児童生徒に教える際、どのような内容をどのように伝えればよいのか、また、信頼できる情報源は何かなどのお悩みをよく聞きました。そこで、先生方が専門知識を習得し、自信を持って授業を行えるよう、授業で使えるスライドと台本の教材を作成しました。
スライドを作成するにあたり、LGBTQ+の児童生徒が差別や偏見を感じることなく自分らしく生きることができる社会を目指す『LGBTQ+インクルーシブ』な学校環境を整えることを授業の目的に位置づけました。『LGBTQ+』を学ぶのでなく『性の多様性』を学ぶこと、LGBTQ+の児童生徒にも有益な情報を提供し、なるべく安心安全に授業に参加できること、児童生徒が性の多様性をなるべくポジティブに感じられることなどにこだわり、作成しました」(小野氏)
さらに、向坂氏は、養護教諭をはじめとする対人支援の専門家向けにクリニカルコンサルテーションを提供する。
「LGBTQ+の方々と関わる際に生じるさまざまな課題に対応するための専門的な相談サービスで、教育関係者の方々にも必要に応じて内容を調整し、提供することが可能です。
このコンサルテーションでは、『カルチュアルレスポンシブネス』という概念を重視しています。これは、多様な背景を持つ人々が集まる場で、誰も取り残さずすべての人が自分ごととして学べるよう環境や教材を工夫するという考え方から生まれたもので、臨床の現場で非常に重要です。
例えば、人種、国籍、経済状況、性のあり方など、さまざまな背景を持つ生徒がいる教室では、特定の層だけを対象とした教育ではなくすべての生徒が自分も含まれていると感じられるようなアプローチが必要です。LGBTQ+に特化した『カルチュアルレスポンシブネス』を基盤とした研修に加え、トラウマとその影響についての知識を持ち、その知識や情報に基づいた関わりをする『トラウマインフォームドアプローチ』やネガティブな問題の予防だけではなく、ユースの健やかな成長と発達の促進にフォーカスを当てる『ポジティブユースディベロップメント』などの概念を基に、個別の相談からグループコンサルテーションまで幅広く対応します」

(写真:Proud Futures提供)
福岡県内の公立中学校での取り組み事例
福岡県内の公立中学校の養護教諭が、自身の経験や小野氏との出会いをきっかけに、学校で性の多様性やLGBTQ+教育に取り組んだ事例を紹介する。
同学校で2017年から養護教諭を務める加藤さおり氏(仮名)は、こう話す。
「学生時代の友人から、自身の性別に対する違和感を打ち明けられたことがきっかけで、性の多様性について関心を持つようになりました。その友人は、周りの目を気にして本当の気持ちを隠したり、したくないお化粧をしたりなどさまざまな葛藤を抱えていました。自分がこれまで友人にかけていた言葉がふと思い返され、『無自覚に友人や誰かを傷つけてしまっていたかもしれない』、『無知でいることは怖い』と思いました。
誰かを傷つけてしまったかもしれない自分を見つめ直し、自分自身を更新したいと思い、学習会などに参加するようになりました。そんな中、当時福岡で活動していた小野さんの講演を聞く機会があり、つながりをもつことができました」(加藤氏、以下同じ)
「リボンが嫌でたまらない」
「スカートをはきたくない」
赴任当初、保健室で生徒たちから打ち明けられたという加藤氏。
「ちょっとしたつぶやきでしたが、目の前にいる生徒たちも、かつての友人のように苦しんでいるのかもしれない。この子たちが生きづらい環境を作ってはいけないと感じ、2019年、人権教育担当のベテランの先生に相談しながら性の多様性についての職員研修の実施を提案しました」
管理職の理解も得、講師に小野氏を呼び職員研修を実施したところ、多くの教職員が参加しポジティブな感想が得られたという。
2020年からは、総合の時間を活用し、全校生徒向けに小野氏の団体が作っている教材を使って事前学習を行ったあと小野氏の講演会と振り返りの授業を取り入れるようになった。現在も、新入生に対して継続的に実施している。
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