JTが三たび大型買収、「6000億円」は妥当か 縮小市場での巨額買収に疑問の声も
「買収金額を正当化するのは困難」。市場から聞こえるネガティブな反応どおり、買収発表翌日の9月30日、JT(日本たばこ産業)の株価は一時、前日比10%安の3556円まで下がった。
JTは米たばこ大手のレイノルズ・アメリカンから、たばこブランド「ナチュラル・アメリカン・スピリット」(アメスピ)の米国以外(日本やドイツなど)での事業を、約6000億円で買収する。資金は手元や借り入れを充当し、2016年初頭の買収完了を見込む。
株価が下落した理由は買収額の高さだ。当該事業の2014年度業績は、売上高176億円、税前利益21億円。営業権や商標権の償却に伴い、今後10年間で得られる税務上のメリットを差し引くと、実質的な買収費用は約4700億円だが、これは売上高の約26年分にも相当する。
「メビウス」より高い「アメスピ」
今回の買収についてJTの小泉光臣社長は、「たばこ事業の中長期的な利益成長に向けた重要な一手」と、自信を見せた。特に日本市場で、アメスピは無添加などが支持され、2ケタ成長を持続。1箱480円の価格は、JTの主力ブランド「メビウス」(430円)より高く、手薄な高価格帯の強化につながる。が、「成長性を加味しても買収金額は割高。株主還元への影響も懸念される」(モルガン・スタンレーMUFG証券の出村泰三アナリスト)ため、投資家からの評価は厳しい。
それでも、大型買収に踏み切る背景には、JTが抱える“ジレンマ”がある。
国内たばこ市場は、健康志向の高まりやたばこ増税で縮小基調だ。規模は1996年の3483億本をピークに2014年は1793億本に半減した。需要減への危機感からJTは早い段階で海外展開を模索。1999年に米RJRナビスコの米国外たばこ事業を約9400億円で、2007年に英たばこ大手ギャラハーを約2.2兆円で買った。今や売上高の半分超を海外たばこで稼ぐ。
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