公立小教員が実践、生産性を上げ児童の学びを深めた「自由進度学習」のポイント 単なる放任と呼ばれる実践に欠けた視点とは

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難波氏は、1つの教科だけでなく、複数教科での自由進度学習にも挑戦してきた。その根底には、「生産性の向上と学びの深度」への思いがある。

「1人の教員が35人程度の子どもたち全員を同時に教え導くには限界もあります。限られたリソースの中、いかに子どもたちに自分の頭で考える時間をつくってあげられるかが大切だと思っています」

例えば、図工科で使う電動糸のこぎりの数には限りがあり、どうしても手持ちぶさたになる子どもが出てきてしまう。そこを何とか解消しようと、家庭科の担当教員と相談し、小物を製作する家庭科と、電動糸のこぎりを使う図工科を同時進行で行ってみた。「10時間あげるから、自分たちで計画を立てて両方の課題を進めよう」と指示を出すと、子どもたちは自分なりの見通しを持ち、互いの状況を確認しながら融通を利かせて課題に取り組んだという。

その結果、「1人当たりの電動糸のこぎりを使う時間と教員が個別に関わる時間、そして友達と協力し話し合う時間が増えました。このほか、校庭で『体育の鉄棒×理科の植物観察』『図書室で国語の図書単元×社会の調べ学習』などにも取り組んできました」と、難波氏は話す。

さらには「国語×社会×総合学習」の3教科による自由進度学習も展開。環境について保護者に発表することを目標にした社会を軸に、国語の「読む・書く」と総合の「SDGs(持続可能な開発目標)」の学びを組み合わせた。

「4人1組などのグループでこうしたカリキュラムマネジメントを行うと、各自が自分の強みや興味を生かして学び、その成果を結集させるので、発表がよりよくなります。自由にすることで学びが深まると感じますね。生産性が上がるか、主体的・対話的で深い学びができるか。そのどちらかが実現できそうなときに教科を混ぜています」

注意したい「孤立」の問題、「協働」に軸足

自由進度学習を行うに当たって、注意したいのは「こなす」のみの実践だという。

「自由進度学習は通常、見通しが持てるよう進度ごとのタスクを設定します。しかし、教員が意識していないと子どもたちは単なる作業のようにタスクをこなすだけになってしまいます。そうなると各自が孤立して勉強が個人の活動になってしまい、対話も生まれなければ、協働的な学びも生まれません。それでは『個別最適な学びと協働的な学びの一体化』とは言えないでしょう。おそらく『放置・放任』『ファッション自由進度学習』と指摘される実践は、学びが個別化されすぎているのではないでしょうか。教員は、協働的になれる場面や友達と対話できるような雰囲気をつくっていく必要があると思います」

難波氏は自由進度学習に積極的だが、一斉授業を否定しているわけではない。一斉授業は効率がいいと考えている。

「最初に見通しや方向性を立て、皆で確認したほうがいいと思うところは一斉授業をしています。一方、知識の活用においては、子どもに任せてみたほうがいいと考えています。知識の活用場面で一斉授業をすると、理解が進んでいる子は退屈な時間を過ごすことになるし、知識の理解が十分でない子には苦しい時間となります。そうした差は、自分のペースで学べるようにしてあげることで解消できると思っています。ただし、こちらのメッセージが伝わってないと感じれば、また皆を集めて一斉授業に立ち戻ることも。つねに子どもたちの状況や雰囲気を見ながら対応することが重要です」

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