「共同通信がグーグルの生成AIにニュース提供開始」に潜む構造リスク、ますますメディアの経営を厳しくしかねない
2点目が、X(旧ツイッター)やフェイスブックがニュースメディアへのリンクを伴う投稿の表示優先順位を下げたこと。SNSからの流入がかつてのようには期待できなくなっている。
これと関連するのが、3点目のインフルエンサーやプロYouTuberの影響力増大である。若年層が多く利用するSNSの世界では、伝統的なジャーナリズムメディアの報道よりも、インフルエンサー、プロYouTuberなどの個人的な意見や感想を好むようになっており、ニュースメディアの存在感が急速に薄れてしまった。
そして4点目がヤフー問題だ。検索エンジンやSNSの変化によって、ウェブメディアのページビューにおいて相対的にヤフーニュースからの流入への依存度が高まっている。しかし、ヤフーの事情としては、自社や子会社が制作するオリジナル記事を重視していく傾向が強くなる可能性がある。
なぜなのか。ヤフーはウェブメディアから20日から400日の掲載期限付きで記事を購入することが多く、無期限に掲載できるわけではない。それに対してオリジナル記事の場合は、ヤフーのサイト内に残り続ける。多くの場合には著作権も保持しており、自社の知的財産である。
生成AIを活用していくにあたってヤフーとしては「メディアから短期的に借りてくるコンテンツ」を使おうとすれば、さらに契約見直しと利用料の支払いが発生する。ヤフーとしては、オリジナル記事を増やしていくインセンティブが高まるわけだ。
「共同通信社がグーグルと提携」のインパクト

一方で、ヤフーニュース編集部は、メディアから購入するコンテンツについては、ガイドラインを厳格に適用することによって、ルール違反を行ったメディアとの契約を解除する動きを強めていると聞く。大手ウェブメディアの中からも、ガイドラインに抵触する形で記事配信を続けていたことを理由にヤフーからの契約を解除される例が出始めている。
そうした中で、さらに大きなショックが起きた。共同通信社は3月14日、グーグルと対話型AIアシスタントアプリ「Gemini」向けに最新のニュースを提供する契約を結んだことを明らかにしたのだ。
1月15日にはアメリカのAP通信社もグーグルと同様の契約を結んでいる。これによって「リアルタイムニュースはグーグルのAIアプリで読むことができる」という流れができあがった。
記事の対価は、グーグルにとってはわずかな金額だろう。それに対し、通信社にとっては無視できない規模になるはずだ。追い込まれているメディアほど、あらたな利益を得るために、同様の契約をグーグルと結ぶ事例が増えていくだろう。
この提携に対して、「販売したデータの利用範囲は限定的。もしもグーグルのアプリが急成長してメディア側に著しい不利益が出るようなことになれば、契約を解除すればいい」との声も聞かれる。
「長澤さん、心配しすぎですよ」とのメッセージももらった。しかし、いったん新しい収入源ができあがると、契約を解除することは難しいことは過去の例が示している。
これまでヤフーニュースへの記事配信を自ら止める決断をできるメディアが少ないのは、ヤフーから得られる記事販売収入とページビューが無視できない規模になっているからだ。「いつか来た道」という言葉が頭をよぎる。
しかも、生成AIにリアルタイムニュースを提供することによって、前段の4つの理由によって減少が続く「メディアへのPV流入」は、ますます急減しかねない。
直接的な影響を受けるのは地方新聞社だろう。共同通信が生成AIに最新ニュースを提供してしまえば、その配信記事を利用している加盟社のウェブメディアにとっては大きなダメージになりかねないだろう。
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