日本の中学校教員の時間外勤務時間は世界一という調査結果もあり、教員の過労死などのリスクも高くなっていますし、とくに土日は無理をさせるわけにはいきません。部活動の地域移行や地域展開といって、地域などに指導者や運営団体がいると違ってきますが、本校の実情ではすぐに地域移行できるものではありませんので、生徒にとっても、教員にとっても無理のない範囲での活動日数となりますこと、どうかご理解ください」
実際、いくつかの中学校でこうしたガイダンスを入学当初にすることで、クレームは激減したという例を聞いている。
また、小学校では、私は「保育園を思い出せ」ということを校長研修などで申し上げている。どういうことかというと、うちも保育園児がいるので実感しているのだが、保育園は時間に厳しい。1分でも迎えが遅くなると延長保育料を請求されるし、朝も何時何分からしか受け入れないときっちりしている。これが小学校に行ったとたん、ルーズになる。
また、通園途中のトラブル(ほかの園児とのケンカや交通事故)について、保育園にクレームを言う親はいるだろうか? まずいない。先生に送り届けるまでは保護者責任であることを自覚しているからだ。本来は、小学校以降も、そこは同じなはずなのに、登下校中や家庭内でのトラブルで、学校にお願いしたり、クレームを言ったりすることが増えてくる。
これは、1つには保護者や社会の理解が追い付いていないことが原因だろうが、学校側もそうした事実や線引きをあいまいにしたままで、かまい続けてきたからではないだろうか。
最近のドラマ「御上先生」(TBS)は考えさせられるシーンも多くて、とても見ごたえがあるが、高校の先生が家庭領域にも踏み込んでいく姿は、従来の学園ものとあまり変わらない。学校と家庭との役割分担や線引きはそうそう簡単なことではないし、ケースバイケースでやっていくこともあろうが、部活動の性格や登下校のことなど、これまで述べたことは共通理解できることだと思う。
③ お互いに率直に、オープンに話し合っていきたいこと
以上の①、②を述べると、保護者だって忙しいのに、学校からいろいろとお願いばかりされているように感じる人もいるかもしれない。だが、①で述べたとおり、先生たちに過重な負担をかけないことは、学校も保護者も組める話のはずだ。
今回、クレームという語をたくさん用いた。一部にそういう問題になることがあるのは事実だが、一方で、学校側に遠慮して、なかなか意見や疑問が言えない保護者も少なくない。保護者(私も中高生の保護者でもあるが)からは「自分の子どもが人質にとられているようなものなので、学校には直接なかなか言いづらい」という声も聞く。
入学式の後、校長からは次の趣旨も伝えてみてはいかがだろうか。
「今回は私の思いや学校の実情を中心にお伝えしましたが、保護者の皆様が思われたことやちょっと相談したいことも、これからはお伝えください。学級担任を通じてはもちろんですが、スマートフォンからこちらのフォームでも届くようにしています(QRコードなどを掲載しておく)。〇月〇日は校長とフリートークする茶話会のような場を設けましたので、お仕事の都合などもあろうかと思いますが、お越しいただける方はぜひご参加ください」
今の学校は生徒指導も保護者との関係のこじれも、事後対応で疲弊しがちだ。だが、本来は、事前のプロアクティブな関係づくりにもう少し力を入れたい。学校側、校長もオープンマインドに話を聞く姿勢でいたほうが、疑問や問題を小さなうちから発見しやすくなるから、深刻な問題に発展することも少なくなる。それは、子どもたちのためにもなるし、学校側の負担軽減にもなる。
こうした意味でも大切な一歩が入学式の後にある。
(注記のない写真:yukiotoko / PIXTA)
執筆:教育研究家 妹尾昌俊
東洋経済education × ICT編集部
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