なぜあの学校や自治体はうまくいく?苫野一徳が語る「学びの構造転換」超秘訣 「何のための教育か?」見落とされがちな本質論

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改革のポイントは、「本質論」と「対話」

――先進的な自治体や学校を取材していると、キーパーソンがいらっしゃるケースが多いと感じます。

キーパーソンがいるところは大きく変わりますね。しかし、組織が教育の本質、また議論の作法を自覚していないと、そのキーパーソンが去った後にせっかくの取り組みが瓦解してしまいます。

これまでも教育をよりよく変えようとする動きが何度もありましたが、本質論なき教育改革、つまり「何のためにやるのか」という土台の議論を欠いていたので、時代に流されたり利害関係で物事が動いてしまったりしてうまくいきませんでした。そもそも何のための学校か、何のための公教育かという点を確認し、つねにそこに立ち戻る視点が大切です。

また、さまざまな自治体とご一緒して感じるのは、単純なトップダウンだけでは決してうまくいかないということ。自治体でも各学校でも、最上位の目的を一緒に共有し、そのために何ができるかという対話を重ねる文化や仕組みを作ることが、うまくいくポイントだと実感しています。

例えば、名古屋市は「ナゴヤ スクール イノベーション」を進める過程で、「ナゴヤ学びのコンパス」という学びの方針を定めました。私が検討会議の会長を務めさせていただいたのですが、たくさんの市民の方々や先生方、子どもたちと一緒に作りました。どんな社会を目指したいのかという最上位のところから対話をスタートし、実現したい市民の姿、目指したい子どもの姿、重視したい学びの姿についてみんなで考え合って決めたのです。

(写真:「ナゴヤ学びのコンパス概要版」より抜粋)

今、この「学びのコンパス」に基づき何ができるだろうかという対話会が、校長会をはじめ各学校でも少しずつ広がりを見せているそうです。

私がアドバイザーを務めさせていただいている芦屋市の「Ashiya PEACE プロジェクト」も、「対話」を繰り返しながら進めることを大切にしています。指導主事たちも「よい授業とは何か」などのテーマで定期的に本質観取(※)をやっているとお聞きしています。

※対話を通じて物事の本質を洞察し、共通了解を見いだす哲学対話の手法

実践が増えている「自由進度学習」の課題とは?

――学校現場の実践については、どうご覧になっていますか。

現場レベルではまだまだ「学びの構造転換」のとば口に立ったばかり。例えば、自由進度学習に取り組む先生が増えましたが、課題もあると感じます。「子どもが自ら計画を立てて個別で学べばいい」と捉えている方もいるようですが、それはあくまで1つのスタイル。学び方や進度のバリエーションは、無数にあります。そこを理解していないと、いきなり子どもたちに委ねて混乱したり、委ねたふりをしてコントロールしようとしてうまくいかなくなったりといったことが起きます。

独立研究者の山口裕也さんも最近、「場は共にしていても、思考は共にしていない」自由進度学習の課題を指摘しています。本来なら子どもたちが単にバラバラにタスクをこなすのではなく、挑戦的な課題にみんなでチャレンジできるような場面づくりなども必要です。

ただし、協同の強制ではなく、必要なときに必要な力を誰かに借りることができ、自分も誰かの役に立てるという実感が持てるような「ゆるやかな協同性」で支えていくことが基本です。と同時に、山口さんの言葉を借りれば、「計画的に偶発させたペアやグループの編成」を意識することも大事です。先生にはそうした“場の設定力”が求められます。

このようなポイントやステップについては山口さんが論考にまとめていますが、こうした子どもに委ねていく学びの本質的な知見はまだ十分に蓄積されておらず検証もされていません。大学の教育学部でも、今は7割くらいの学生が「自由進度学習」という言葉を知っていると感じますが、実際に実践したり、理論を学んだりする機会はほとんどないのが実情です。教員養成や教員研修は、抜本的なアップデートが必要でしょう。

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