単価の高い先端ロジック製造を多く手掛けるTSMCの強さは2035年でも変わらない。ただ、2020年代後半のA14までは順調にプロセス開発は進むも、さすがのTSMCもA10で予定より遅延し始め、CFET構造の量産化はIntel含めてimec技術ロードマップ(図3)よりも5年程度の遅延がすでに見込まれている。
躍進を支えた人材がいなくなるTSMC
TSMCの現在の課題は経営層を含めた人材の確保である。台湾、アメリカ、日本、ドイツと世界中に分散した製造拠点をマネジメントする人材が圧倒的に足りていない。また文化の違いを理由に工場ではストライキによる操業停止が発生する恐れが拭えない。
2000年代の躍進を支えた多くの人材はリタイアしていき、セクショナリズムによるマイクロマネジメントが当たり前となり、往年の圧倒的な連携とスピードが失われる恐れがある。インテルが凋落していった時と同じ傾向がみられるのが懸念だ。
インテルは製造部門をIFS(インテルファウンドリーサービス)として独立させ、50.1%の資本を持ち影響力を維持している。2035年にはIFSのプロセスノードはTSMCにほぼ追いつくだろう。光電融合技術を含む先端パッケージング技術の優位性を武器に、主にアメリカ国内の複数の大手ユーザーを獲得して量産効果が2033年からようやく出てくるはずだ。なお、保留となっていたドイツ工場建設は中止し、オハイオ工場の拡張に注力しているだろう。
サムスン電子は競合会社からの受注を受けやすくするために、ファウンドリービジネスをスピンアウトし、独立した別会社を設立するかもしれない。ただ、先端ロジックプロセス開発の苦戦はなおも続いていそうだ。官僚化しすぎた組織と優秀であるがチャレンジするより失敗をしない人材を多く採用してきた弊害かもしれない。また、向上心を持った人材は国内の競合会社に転職しているとも聞く。
注目は日本のラピダスである。2027年からの量産は2年ほど遅延し、日本政府の継続した支援で2029年から本当の意味での量産が始まるだろう。IBMや国内企業からの受注もあり、2034年にはようやく単年度黒字を達成できるかもしれない。
ラピダスはTSMCが標準で揃えているサービスに満足しない尖ったベンチャー企業の受け入れ先として独自の立場を築き始めているだろう。保留となっていたIIM-3,4の工場建設も2036年に始めるかもしれない。
これらの将来の半導体市場でさらに重要なのは中国やロシアなどの動向である。2019年より始まった中国・ファーウェイに対する規制から、米中双方のデカップリング政策は強化され続けている。
オランダのASMLの露光装置をはじめとする先端半導体製造装置やエヌビディアのGPUなどの輸出規制は、中国の通信技術やデータセンターの競争力を抑える目的に対し一定程度効果を上げてきた。しかし、そのような規制は中国の内製化を促進させている。2035年には中国製のEUV露光装置の量産使用が始まり、オール中国製の半導体設計技術・半導体製造技術によるGAAプロセスの確立もあり得るかもしれない。そして中国発のこれらの半導体技術がロシアを含めた友好国に供与される可能性もある。2035年から2045年までの10年間が本当の意味での半導体戦争になる恐れもある。
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