精神科医・斎藤環、「不登校が長期化してひきこもり」でも焦らない支援の有効性 再登校や就労など社会参加ではなく自律が大切

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実際、大阪府寝屋川市では、いじめ対応の専門部署「監察課」を設置して行政と法によるアプローチに取り組んでいる。

こども家庭庁でも、2023年度からいじめ対策として「学校外からのアプローチによるいじめ解消の仕組みづくりに向けた手法の開発・実証事業」を推進。北海道旭川市や岩手県盛岡市、千葉県松戸市、東京都品川区、静岡県湖西市、三重県伊勢市、大阪府箕面市、熊本県熊本市などが参加し、学校外からいじめの長期化・ 重大化防止に資する事業に取り組んでいる。

一方で、不登校の子の居場所も増えている。校内教育支援センターや学びの多様化学校の設置が進んでいるほか、フリースクールや通信制高校が増加し、不登校の子の支援やその進学先も拡充しつつある。斎藤氏は「旧態依然としている学校文化に対し、通信制高校は時代に合わせたアップデートの意識が高いため、これからも広がっていく」と見ている。

不登校を支援する企業や団体も増えており、支援の輪が広がっているようにも見えるが、トラブルも話題になっている。こうした状況を斎藤氏はどう見ているのだろうか

「適切な介入ならいいと思うが、中にはスマホを取り上げるなどして無理やり学校に行かせるような30年前の不登校対策モデルを行う団体もあるようだ。不登校対策には半世紀近い知見の蓄積があり、登校を強制する不登校支援モデルに今さら戻ることはありえないので、そうした活動を行っている団体には歴史に学んでいただく必要がある」

再登校よりも「自律」を目標に

斎藤氏は、ひきこもり治療の第一人者でもある。不登校のかなりの部分が、何らかのかたちで復学や就職などの社会参加を果たしている一方、不登校の一部が長期化して、ひきこもりへと移行することもある。将来の社会参加を見据えた不登校支援はどうあるべきなのか。

「不登校からひきこもりに移行する人はおよそ2割とされている。ただ、社会参加にこだわると、不登校の子どもは登校、引きこもりの大人は就労が目標になってしまう。それよりも、引きこもりハンドブックにもある“自律”を目標にすべき。この“自律”とは自尊感情の涵養、主体性の回復を指す。自分を否定したり蔑むのではなく、したいことをする。そうすると元気が出る。

とくに思春期のお子さんの目標は、家の中で元気に過ごすこと。安全である以上に家の中で何かやりたいという感覚になる関係を作りたい。お子さんが無欲になるのは危険。無欲とは意欲もないこと。学校に復帰する気力も、社会参加も生きていく意欲もない状態になる。だからこそ、欲望の維持を最優先にしてほしい」

将来への不安から、親もつい急ぎがちだが、単純な方法論でうまくいくものでもないという。斎藤氏は、ひきこもり支援としても不登校支援としても有効な支援として、オープンダイアローグ(以下、OD)を上げる。

ODとはフィンランドの病院スタッフが実践を始めたケア技法/システムだ。本人の声にひたすら丁寧に耳を傾けて誠実に応える対話を重ね、それぞれの違いを掘り下げていく。その過程そのものに、当事者をエンパワーする効果があるとされる。

「家族も教員も普段はODのような対話に対応していないからこそ、やることに大きな価値がある。親や教員にとってODは子どもの思いを聞く機会になるが、一方で子ども側も親や教員が何を考え、何におびえているかを聞く時間にもなる。本人が『この人と話したくない』といった場合はODを行うことはできないが、こじれた相手と話すことにも意味がある」

放置はしないが強制もしない。適切に構う、ことが大事だと斎藤氏。社会が急激に変化する今、大人も改めて“自律”とは何か、考えてみる必要がありそうだ。

(注記のない写真:MAPS / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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