幼児期と思春期がカギ、子どもの「脳と心」を健やかに育てる環境のつくり方 大事なのは「感情や感性」を豊かに経験すること
――「母親」「父親」のレッテルに縛られる必要はないということですね。
さらにいうと、アタッチメント対象は親、血縁関係にある者でなくてもいいんです。近所に住む、いつもお世話をしてくれる誰かでもいい。そもそもヒトは、ひと昔前までは大家族であり、地域コミュニティで「共同で」子育てを行っていました。
現代は、核家族が大半となり、親の子育ての負担が大きくなっていますが、これは生物としてはありえない子育て環境です。そもそも、ヒトという生物は共同養育という形態をとりながら進化してきたと考えられています。出産するのは女性ですが、育てる段階では複数のコミュニティメンバーが協力して子育てを担ってきたと言われています。
生物としてのヒトの育ちに立ち返ると、現代社会では幼稚園・保育園・こども園などが「現代版・共同養育」の場としてその役割が大きく期待されます。ヒトを育てることは、その子が生涯持つことになる脳をいかに育むかに直結します。その責任の重さを社会が広く理解し、それに対して支払われるべき対価についても改めて考える必要があります。保育という営みは、誰にでもできる「サービス」であってはならないのです。
子育ては、誰かを頼らないとできない営み
――思春期において、前頭前野の育ちに大切なことは何でしょうか。
これまでに経験したことのない多様な人々に出会い、触れ合い、感情を沸きたたせる身体経験をすることかと思います。
現代はSNSなどオンライン上でのつながりが強まり、「好きな人とだけつながっている、均質で心地よい空間」を選択できる時代です。思春期は、脳発達における重要な時期―感受性期です。思春期をこうした偏った環境で過ごすことで高まるリスクは、脳科学から予測できます。オンライン空間で過ごすことが日常となった今こそ、外に目を向け、自分の世界を超えた他者と出会う、身体で経験する挑戦をあえてしてほしいのです。
例えば、シニアの方の話を聞いたり、赤ちゃんと遊んでみたり、海外に出て現地の人と話してみたり――。自分と全く違う文化で育ってきた人や言葉が通じない相手と接するときには、その人がどう考えているのかをあえて意識的に思考する必要があります。そうした認知的負荷がかかる経験により、前頭前野が鍛えられ、育っていくはずです。
――最後に、子どもと向き合う立場にある親や教育に関わる方へ向けてメッセージをいただけますか。
ヒトを育てるという経験は、実は自分の脳と心を育てることにつながります。子どもは、大人から見ると自分とは大きく異なる存在です。思い通りにならないことが多く大変ですが、それを乗り越えた先には、自分自身の成長、達成感や喜びが得られるはずです。
とはいえ、すべてをひとりで背負い込む必要はないこともお伝えしたいです。そもそもヒトは共同養育により進化してきた生物であることを忘れないでいただきたい。子育ては、誰かを頼らないとできない営みなのです。孤独になりがちな現代社会で必要なのは、子どもだけでなく育てる側も安心できる “コミュニティ”です。コミュニティの仲間と子育ての苦労と感動を共有しながら、自分自身の成長にも気づき、褒めてあげてほしいです。
(文:藤堂真衣、注記のない写真:zon/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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