アメリカのトランプ氏再選と似た現象が展開されたといえる。アメリカにおけるトランプ氏の圧勝は、ハリス氏がインフレや物価高などよりも、人工妊娠中絶の権利擁護などに焦点を当て、しかもバイデン政権との違いを明確にできなかったことが要因とされている。ハリス氏がトランプ氏の舌戦ゲームに参加したことも裏目に出た。結局は相手の批判に時間を奪われることになるからだ。
庶民にとっての関心は「生活」である
庶民にとっての最大の関心事は、いうまでもなく生活であり、経済状況に直結する争点である。
知事選では、おそらく県民の多くは、パワハラなどよりも特定の個人や団体が税金のムダ使いや、特権の享受をしていることなどを正すことへの関心が高く、「既得権益にノー」と言えるかどうかという能力的なイメージを優先したといえる。また、単純に斎藤氏の他に食指が動く候補が見当たらなかったという消去法的な選択も少なくなかっただろう。
国民民主党の玉木代表の不倫報道後、逆に支持が高まった現象は、スキャンダルよりも「手取りを増やす」政策が重要視された好個の例である。
実際、国民民主党の支持率は不倫報道があったにもかかわらず前回調査より10ポイント上昇の11%となり、結党以来、過去最高を記録した(日本経済新聞社とテレビ東京が行った11月15〜17日の世論調査)。
そして、この玉木フィーバーに関しても、県知事選と同じ大手メディアに対する不信と陰謀論が渦巻いていることは見逃せない。
本質的に公式的なマスコミにも非公式的なマスコミにも偏向はあり、情報の質や伝え方といった信頼性は個別に慎重に見ていくしかない。けれども「新しい戦線」の拡大が危ういのは、前述したように「どちらが真実の側か」という善と悪の闘争に陥りやすい点である。
そこでは、陰謀論的な言説による「他者の悪魔化」を招き、暴力行為や脅迫といった実害をもたらす。もちろん悪魔化はどちらのマスコミも引き起こす可能性がある。
今回の知事選をネットメディアの勝利とするのは正しくないが、大手メディアに対する目が厳しくなっているのは事実だろう。
諜報活動の用語で「Blowback(反動)」という造語がある。秘密作戦の予期せぬ結果や望ましくない副作用のことである。
とりわけ高視聴率を叩き出す話題を延々と続けるワイドショーなどのテレビ番組に当てはまることだが、不祥事の内容とニュースバリューのずれから、メディアスクラムに至るまでが徹底的に可視化される時代において、公式的なマスコミはあたかもBlowbackに見舞われているかのようだ。
しかも、恐るべきことにこのBlowbackこそが知事選を決したかもしれないのである。
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