SLの運行には、手間もカネもこんなにかかる 観光振興の起爆剤は、一筋縄にはいかない

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ただ、両社とも、動態保存運転の実現および継続のためには、蒸気機関車の検査修繕が課題となってくることは間違いない。具体的な計画は未発表だが、京都のJR西日本の蒸気機関車検査修繕施設の活用が考えられよう。

これらに対し、名古屋臨海高速鉄道(あおなみ線)における運転は頓挫している。最大株主である名古屋市の河村たかし市長の発案による観光振興計画であったが、しょせん思いつきにすぎなかった。2013年にはJR西日本からC56形蒸気機関車を借り入れて走行実験を行うところまでは進んだが、運転技術や検修技術・設備をどうするつもりなのか。ビジョンは明確ではない。

難しいSLの動態保存運転

蒸気機関車は大井川鐵道から借りようとしたが、2015年5月に同社から正式に断られている。借入料を支払うのは当たり前だが、それは経費相当額だけではなく、大井川鐵道が長い時間と費用をかけて培ってきた技術と経験に対する、正当な見返りでなければならないはずだが、果たしてどうだったか。

他方、名古屋臨海高速鉄道の株主でもあるJR東海は、「蒸気機関車に対する技術を継承しておらず、必要な物も人材もない」と、協力しない意向を明らかにしている。名古屋市は明知鉄道所有のC12形にも興味を示しているそうだが、初期費用だけで約5億7000万円と見込まれる、動態保存状態への復元に必要な費用をどう考えているのか。

蒸気機関車の動態保存運転は、単に車両があればよいというものではない。バックヤードとなる環境を整えてこそ、初めて実現する。観光振興だけに目がくらんだ甘い考えでは無理。産業遺産への深い理解も必要。そして、実施する者の「覚悟」を示さなければならないのだ。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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