親が専門家顔負けの支援、発達障害の子「応用行動分析学」に基づく療育で注目 子どもの特性に合った関わりの技術を習得へ

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その子はアメリカで専門的な療育を、お母さんもペアレントトレーニングを受けていたが、日本では療育を受けられる機関がなく、母親自らわが子の療育にあたっていた。竹内氏は、その母親から療育の方法を教わりながら言葉を教えていたのだが、そこに熊氏も加わったという。

「例えば、ちょうだいという要求の言葉を引き出すことを目的に支援を行っていたとします。ただ言葉を無理に言わせるのではなく、子どものモチベーションを上げて自発的な言葉が出やすいような関わり方について、きめ細かに指導を受けました。関わりがよかった場合は、お母さまからほめていただき、逆によくない関わりで、子どもの癇癪を誘発してしまったような場合は、別の関わり方に変更するよう指導されました。こちらの関わり一つで子どもの行動が大きく変わることを実感しながら、一つひとつフィードバックをもらってスキルアップしていきました。

その結果、子どもが言葉を話せるようになったり、コミュニケーションが豊かになったりする過程を多く体験させていただきました。大学で勉強したことを実際にやってみることは、まったく別世界のように難しく、同時に大きなやりがいを感じました。

親御さんが専門家顔負けの知識を持っていたので、子どもへの言葉がけが理論にかなっていることもよくわかり、納得感がありました。同じように勉強されている親御さんが集まって勉強会を開いたり、海外から専門家を招いて講演会を行ったりする機会にも参加させていただき、療育の最先端の情報にも触れることができました」

熊氏は、この経験が後に事業を組み立てるうえでも重要だったと振り返る。発達支援の実践現場に早くから関われたというだけでなく、専門家の介入する割合は一時期で、保護者が子どもの専門家になっていくプロセスを支援することが大切だと気づいたからだ。

その後、「応用行動分析学に基づいた療育ができる学生がいる」という口コミが広がり、多くの保護者から依頼が来るようになる。そこで、大学の指導教授で応用行動分析学が専門の山本淳一氏を顧問として、ほかの学生にも声をかけてサークルを立ち上げた。

「当時、起業するつもりはなく、博士課程を修了してから考えようと思っていました。ところが、修士課程修了時に博士課程の願書提出を、私も竹内も2人揃って忘れるというハプニングがありました。この1年のブランクを前向きに活用するため、任意団体ADDSを設立することになったのです。その後、NEC社会起業塾で学び『発達に特性がある子どもたちの可能性を最大限に広げられる社会を作る』というミッションを掲げて法人化しました」

海外とは異なる日本の発達支援の特徴

発達障害の子どもを支援する手法はさまざまあるが、アメリカで発展したものの1つに応用行動分析学がある。ADDSは、応用行動分析学と発達心理学の知見に基づいた支援を開発し、効果を示しながら事業化、政策提言にも積極的だ。日本における発達支援の特徴や課題はどんなところにあるのだろうか。

「アメリカやイギリスでは、エビデンスに基づいた発達支援が政策と連動し、ガイドラインが出されています。行政機関がリードしてエビデンスに基づく支援の指針を出すという点において、日本はまだ課題があると思います。福祉領域では医学的な診断がされる前の支援が重視されており、それはよい面もありますが、エビデンスに基づいた支援をどのように制度に組み込むかという点では後れを取っています。

文化的な違いもあり、欧米では特性に合った効果的な支援を受けることが子どもの権利として捉えられる傾向がありますが、日本の福祉では『子ども』として丁寧に向き合うことが重視される傾向を感じます。どちらも大切なことですから、両方の視点やアプローチをバランスよく制度に取り入れていく必要があると考えています」

日本で発達支援につながるタイミングは、主に2つある。1歳半健診と3歳児健診で、多くの自治体では自閉症のスクリーニングを行っていて、気になる点が見つかれば療育を受けることを勧められる。保育園や幼稚園から療育を勧められるケースもあるだろう。ただ、未就学児は投薬ができない場合も多く、医療につながるメリットを感じない、また診断を受けることに抵抗がある保護者も多く、医療機関を受診するのは就学前ということも多いという。

「療育を受けるには、自治体の障害福祉課などで障害者通所受給者証を発行してもらいます。この書類があれば、3歳までは1割負担で、3歳以上ならほぼ無料で療育を受けられます。受給者証の発行に必要な書類は、保健師や相談機関の心理士が意見書を書いて提出します。療育機関には民間事業者も含まれるので、ある程度選べる体制にはなっています。こうした未就学児に対する障害福祉サービスは児童発達支援と呼ばれます。小学校に上がると『放課後等デイサービス』という福祉制度があり、大枠は児童発達支援と同じ仕組みで利用できます」

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