幼保小の接続問題、通知表廃止した香川小で新たな実践「スタートカリキュラム」 学習指導要領の目標・内容とのひも付けは?
Google Classroomを活用し、私自身の授業観や子どもたちの学校生活を写真と文章で毎日のように伝えました。保護者の方からは、「子どもと一緒に学校に行っているようです」という声をいただいたり、活動のときに学校に足を運んで協力していただいた方からは、「子どもの成長を間近で見られて安心します」といった声が届きました。保護者の方から理解や協力を得るには、教員からのこまめな発信が大切だと思います。

コロナ禍以降は、保護者の皆さんとよりいっそう連携し、子どもたちの成長を一緒に見守る機会が増えました。活動に参加できない保護者の方は、家庭で子どもからの相談にのったり、材料を準備したりなど、さまざまな形で子どもたちの成長を支えてくださいました。
「子どもとつくる時間割」を実現することは、子どもたちのやりたい気持ちをかなえるためだけでなく、保護者もよい形で巻き込み、「共に学ぶ」ことにつながると思います。
──幼児教育のプロフェッショナルの方の伴走もあったそうですね。
2017年、横浜国立大学の教職大学院1期生として学んでいたとき、幼児教育にも関心があったので、知り合いの私立幼稚園を訪れた際に、久保寺節子先生という副園長先生と出会いました。私自身のそれまでの実践は、公益社団法人信濃教育会教育研究所所長・東京大学名誉教授の佐伯胖(ゆたか)先生の理論を参考にしており、その話をしたら、久保寺先生は学生時代、佐伯先生のゼミ生だったことがわかり、意気投合したのです。
ネットニュースによる本校の通知表廃止についての配信をきっかけに再会し、久保寺先生は年間50回以上、私の授業に足を運んでくださいました。久保寺先生は、ただ単に「こうすべきだ」と指示するのではなく、「これはどうでしょうか?」と問いかけたり、「山田先生の実践はここがユニークですね」と具体的な例を挙げ、自身の教育の特色を気づかせてくれました。
授業研究のように硬い雰囲気ではなく、子どもたちの日常を自然に見てもらうことができ、非常に意義のある経験となりました。
学習指導要領へのひもづけと評価
──興味深い実践の数々ですが、学習指導要領の目標と内容を満たすことはできるのでしょうか。
私がさまざまな実践をつくるときの基にしているのは、学習指導要領の目標と内容、教科書の内容です。ただし、教科書の内容を見ながら教材研究するわけではなく、先ほど申し上げたように「子どもにとってどのような状況のときに、その内容を学ぶ必要性や必然性が生まれるのか」を考え、プロジェクト活動をはじめさまざまな活動に教科の学習内容を埋め込む形でデザインしています。ですから、これまでお話ししてきた実践はすべて教科の学習内容とひもづいており、学習指導要領の目標と内容を満たしています。
──活動のアイデアが浮かばないときは、どのような授業をされているのですか? また、授業時数はどのように調整しているのでしょうか。
活動のアイデアが浮かばないときは、子どもたちが楽しく学べるような工夫をしています。例えば、算数の「なんばんめ」の実践では、5つの紙コップに2つのサイコロを入れ、どこに入っているのかを当てるゲームをしながら「右(左)から何番目」などの理解を深めていきました。
授業時数については、学習指導要領で示されている各教科の時数の1週あたりの目安を子どもたちに伝えたうえで対話しながら時間割を決めていきます。ときと場合に応じて何を学ぶか未定の「?」の時間をつくり、子どもたちを意図的に学びに誘ったりしながら調整しています。
──評価はどのように行っているのでしょうか。
ご存じの方も多いと思いますが、香川小では学校全体で議論した結果、2020年度から通知表を廃止しました。通知表の代わりになるようなものを準備するという発想ではなく、各担任の裁量により、日常的に子どもの生活と学習の様子をさまざまな機会とツールで伝えたり、面談を通して保護者に日々の学校での様子を伝えたり、家庭でも子どもとの関わりを大切にしていってもらえるようにしています。
これまで通知表を作成するために割かれていた膨大な時間を、子どもたちの成長を見取ったり、授業づくりをしたりする時間に使われるようになり、「結果」だけでなく、子どもを一人の人間として日常的に見取り、プロセスを伝える日常的な評価=形成的評価を大切にしています。プロセスを伝えるという意味では、学習の成果物をファイリングして保護者に見てもらっています。成果物には、ABCなどとラベリングをしたり、「もっとよく見て書きましょう」などと「指導」したりするのではなく、「アサガオのたねがくぼんでいるところをよくみているね」など、「認める・共感する」言葉で伝えるようにしています。