ハマのドン・藤木幸夫が貫いた「死者との共闘」 政財界が一目置く「情理に生きる男」の素顔【前編】
横浜港の利権を最大化するためのポーズだろうと言う者もいれば、金さえ積めば賛成に翻るとしたり顔で語る者もいた。実際、藤木の元には億単位の金をちらつかせに来る者がいたという。
しかし何びとも、藤木のカジノ反対の姿勢を突き崩すことはできなかった。藤木の真意を深いところまで理解できる人間が、現代日本の政界、経済界にはいなかったということかもしれない。
豪華客船が寄港する大さん橋のたもとに、港湾労働者の供養塔がひっそりと立っている。藤木はそこを通るたびに、手を合わせる。
港をゆっくり歩きながら、藤木はこう口にした。
「苦労も知らない。人様のために働いたこともない。自分だけよければいいんだっていうやつらが、金に飽かせてここに来て、博打(ばくち)を打って酒を食らって帰られたんじゃ、ここで働いた人に申し訳ないよ。私の親父だとか、昔の人はね、食いたいものなんて食ってない、着たいものなんて着ていない、言いたいことなんかも言ってない。社会的に恵まれない生活をして、苦労していたんだよ」
死者との共闘 はじかれ者へのまなざし
2021年、カジノ反対を打ち出す記者会見で藤木が触れたのは、この地で死んだ者たちだった。
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