「自分で考える子ども」育てるフリースクール、創立者が無報酬で続ける原動力 東京コミュニティスクール・久保一之氏に聞く

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2024年8月31日、東京都内で「東京コミュニティスクール」(以下、TCS)の創立20周年イベントが開かれた。小学生年齢の子どもたちを対象とする同校は、「認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)」が運営する学校である。なぜ認定NPO法人で学校をつくったのか、その学校が20年も継続できているのか。フリージャーナリストの前屋毅氏が、創立者の久保一之氏に聞いた。
創立20周年イベントの壇上で思い出を語る創立者の久保一之氏と卒業生

夏休みが終わったばかりのTCSの教室や階段室の壁には、ところせましと模造紙が貼られていた。

子どもたちが夏休み中に取り組んだ個々の研究成果が、一枚いちまいに描かれている。そのテーマはバラバラで、しかも「スイカは果物か野菜か」など、どれもがユニークだ。「朝顔の成長観察」といった同じテーマでの同じようなレポートが貼り出されている、よく見かける学校の雰囲気とは、明らかに違っている。

どれも本やパソコンなどでうわべだけ調べたものではない。スイカのことでもスーパーの担当者に訊くなど、「足で集めた情報」も盛り込まれ、そうした情報を取り入れながら報告者本人の結論が導かれている。そのユニークさと内容の濃さを指摘したら、創立者の久保一之氏からは次の答えが戻ってきた。

「ただインターネットや本だけで調べただけでは調査にならないとは、普段の授業でも言ってきていることです。1つの情報で結論を出すのではなく、複数の情報源をたどって妥当な結論を出すことをTCSでは大切にしています」

久保一之(くぼ・かずゆき)
東京コミュニティスクール 創立者
1966年5月11日生まれ。英語教師の紹介・派遣、教育コンサルティング事業を手がけるグローバルパートナーズ代表取締役、ビジネス・ブレークスルー大学および大学院教授

見学させてもらった授業の様子についても、久保氏に筆者の感想を伝えた。行儀よく、いすに座っているわけでもないし、中には立ち上がったり、席を離れる子もいる。しかし、どの子も授業を無視しているわけではなく、テーマと向き合い、みんなが発言していた。手を挙げて当てられた子だけが発言する一方で、発言しないまま授業時間を終える子がいる、そんな“普通の学校”での風景が、ここにはなかった。その筆者の感想に、久保氏が答える。

「みんなが発言できる時間を十分に取るという意味でも少人数での授業をやっています。発言するのを待ってもらえたり、発言のチャンスが何回もあるような環境づくりを意識しています。探究する学びの1つのプロセスであるディスカッションをやりやすくする仕掛けです」

急遽TCSを創立することになったわけ

TCSが開校したのは、2004年8月30日のことだった。久保氏がTCSの創立を決断したのは、その直前といってもいい5月のことである。この年の4月に関西のフリースクールが東京校を開校したものの、事情があって夏前に休校することになった。

すでに在籍していた3人の子どもたちは、行く場所を失ってしまった。その休校を決めたフリースクールの東京開校準備を初期のころに手伝った縁で、すでに関係がなくなっていたにもかかわらず、対応の相談が久保氏のところに持ちこまれたのだ。

久保氏は、その3人の子どもたちを受け入れることを決める。といっても、閉校を決めたフリースクールを引き継ぐつもりはなかった。それ以前から、久保氏は自分の学校をつくる準備を進めていた。その学校の開校を早めて、行き場を失いかねない3人の子を受け入れることにしたのだ。

開校するにも、校舎がなければ始まらない。校庭の代わりになる公園や図書館など利用できる公的施設が近くにあり、何より3人の子どもたちが通える場所にあることが条件だった。当然、予算的にも限度はある。あちこち探して、ようやく見つけたのが東京の東高円寺にあった物件だった。そこと賃貸契約を結ぶにあたって問題になったのが、借りる主体、つまり開校する学校の運営主体だった。

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