「自分で考える子ども」育てるフリースクール、創立者が無報酬で続ける原動力 東京コミュニティスクール・久保一之氏に聞く

「学校の運営体として、個人か会社、そしてNPOという3つを考えました。今は一般社団法人という選択もありますが、当時は一般的ではありませんでした。建物を借りるのに、個人では相手にされない、会社だと警戒されてしまうのが現実でした。しかし、NPOだと相手も話を聞いてくれる。学校をつくるといっても、公教育に対抗する気はなくて、最終的には公教育とも仲よく提案していける存在を目指していますから、NPOなら公教育とも話せる関係になりやすいと考え、NPOでやっていくことにしました」
設立してから数年して、認定NPOとなる。理由は、認定NPOのほうがより高い税制優遇が適用されるからだ。寄付してもらうにしても、認定NPOのほうが寄付者の受けられる優遇は大きい。それだけに基準審査は厳しくなるが、こちらを選択した。NPOの中でも認定NPOの数は、まだまだ少ない時代のことである。
最初の校舎についての印象を、20周年記念イベントで登壇した保護者の一人は「見学に行って、建物を見て、子どもを入学させるのをやめようと思いました」と語っていた。「畳もあるような部屋でしたからね」と、久保氏も笑う。学校らしからぬ建物だったようだ。しかし、その保護者は「やめようと思いましたが、学校方針についての話を聞いて、『ここしかない』と決めました」と語ってもいた。
開校までは、ある意味ドタバタだったといえるが、前述したように、以前から開校について久保氏は準備を進めていた。学校をつくるというのは、それまでの久保氏の経験から導きだされてきたことでもあったからだ。
「大学を卒業して入社した企業に13年間勤めましたが、そのうち6年半は人事を担当して、新卒者の採用とか研修もやりました。そこで感じていたのが、一流といわれる大学を卒業してたしかに頭はいいけれど、自由な思考ができない。そういう若者が多いことが気になっていました。その根本的な原因は学校教育にあるのではと、考えるようになりました。ずっと日本の教育がダメだったわけではなくて、ある時代においては成功モデルだったはずですが、時代が変わってきて、合わなくなってきている部分が目立ちはじめているのではと思っていました」
基本理念「自和自和」の意味するところ
TCSは、「自和自和」という基本理念を掲げている。同校の学校案内には、それを次のように説明している。久保氏が考える教育のあり方である。
「『自和自和(JIWAJIWA)』とは、『自分らしさを活かし、人や社会や自然との和(つながり)を楽しみ、ともに学び着実に成長する』という意味を表すことばです」
小学校では2020年度、中学校では2021年度から完全実施となっている現学習指導要領の「基本的な考え方」について、文部科学省のホームページは「自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力」を育成すると説明している。
その背景には、今後の社会を「予測できない未来」だとし、「社会の変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、一人一人が自らの可能性を最大限に発揮し、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していくことが重要である」(中央教育審議会〈中教審〉教育課程企画特別部会資料 2015年11月)という考えがあるからだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら