勤務間インターバルの導入、「学校にはなじまない」という人に足りない視点 原則と実態が乖離する中、最低限の仕組み必要

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実際、公立小学校教諭の約4割が深刻な寝不足、不眠症と疑われるとの調査結果もある(堀大介ほか「公立小学校教員の不眠症に関する業務時間分析」、『厚生の指標』第68巻第6号2021年6月)。先生が寝不足で、いい授業ができるだろうか?子どもたちの声にじっくり耳を傾けられるだろうか?

ところで、読者のみなさんも、大きめの書店に行ってみてほしい。ビジネスパーソン向けの棚で、睡眠に関する本がたくさん並んでいるのに気づくのではないだろうか。日本人は世界でいちばん睡眠時間が短いという調査結果もあるが、やっと、最近になって、睡眠の重要性に気づき始めた人が多いようだ。

学校・教員を対象とした研究ではないが、92の論文をもとにしたメタ分析(M.M. Van Veen, M. Lancel, E. Beijer et al. The association of sleep quality and aggression. Sleep Medicine Reviews 59 〈2021〉)によると、睡眠の質の低下は、80.8%の研究で攻撃性の高さと関連していた。つまり、睡眠不足だと、イライラしやすくなったり、怒りっぽくなったり、攻撃的な行動に出やすくなったりする傾向が認められた。

これを学校に当てはめてみると、睡眠不足の先生のもとでは、ついつい児童生徒に怒りっぽくなったり、威圧的な学級運営になったり、不適切指導の温床になったりするリスクが高まる、と解釈できるだろう。日本の学校でそういう相関があるのかどうかは今後検証が必要ではあるものの、そうしたリスクは重く想定しておいたほうが、子どもの安全・安心にとっては望ましい。

また、睡眠不足とも関連深いこととして、教員の過労死や過労自死が毎年のように起きている。過労死等防止白書が毎年出ているが、過労死の公務災害(労災)申請をした教員は、ここ最近でも20人前後いる。公務災害の申請をしないケースも多いので、氷山の一角だ。

しかし、公立学校では、給特法の影響で、残業代といったかたちで使用者にペナルティを課して、労働時間を短くしようとする仕組みはない。言い換えれば、残業拡大への歯止め措置が、公立学校は非常に弱い。

しかも、働き方改革が叫ばれる以前、この10年ほど前までなら、「夜遅くまでがんばっていて、子ども思いの熱心な先生だね」と校長や同僚、あるいは保護者等から褒められていたかもしれない。従来慣れ親しんだ仕事の仕方や価値観を転換するのは、そう簡単なことではない。

そこで今回、勤務間インターバルの導入によって、最低限の歯止め措置、健康確保策を打とうとしているのだ。言い換えれば、勤務間インターバルは、教員の睡眠時間・生活時間の確保により、命・健康を守るための施策であるし、それは、児童生徒を守るための仕組みとも言える。

「学校は通常の企業や市役所などと違って、夜遅くまで残業したからといって、翌日の始業時間を遅らせることはできない。毎朝子どもが登校してくるし、代わりをしてくれる教職員も少ないのだから」。こういう反論や疑問は必ず出る。

もちろん、それはわかるし、教職員数の増加も合わせ技としていくことが本筋だろう。文科省や中教審は、「インターバルをやれ」と文書に書くのは簡単だが、やるほう(学校、教育委員会)に十分な人的体制、環境がないなら、絵に描いた餅になる。早々に形骸化する可能性も高い。

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