国債・非常事態宣言 「3年以内の暴落」へのカウントダウン 松田千恵子著 ~どうすればリスクを回避できるか
ユーロ圏におけるソブリンリスクの問題は、新興国を含む各国経済の減速懸念と金融市場・為替市場の不安定化という形で世界経済全体の問題に転化しつつある。こうした中にあっても日本の長期金利は1%近辺の水準で安定的に推移しているが、一般会計予算の半分近くを国債発行に依存している現状が「非常事態」であることは確かだろう。日本国債が3年以内に暴落するかどうかはともかくとして、どうすればリスクを回避できるのかは、やはり気になるところだ。本書はこの問題を考えるうえで有益な示唆を与えてくれる。
日本の財政が大変だと言われる中にあっても日本国債の格付けは上から4番目のランク(ダブルAマイナス)で、依然として高い信用力を維持している。
だが、このことは国民にとって安心ということを意味しないと著者は言う。格付けが示しているのはあくまで債務の返済能力であり、「借り換えや新規発行を無事に行えることと、国民の生活が痛むこととは別問題」だからだ。「何をやってでもお金をかき集めてこられる能力」の中に、不意打ちのような増税や高率のインフレが含まれるとしたら「日本国債は大丈夫」と安心してはいられない。
国債暴落という最悪のシナリオを避けるには、財政健全化に向けた取り組みを着実に進めていくことが必要になるが、この点において最も懸念されるのは「日本国のガバナンス」の問題だと著者は言う。「時間軸と優先順位の概念がなく」、情報開示に不熱心で、コミットメント(約束)のあいまいな政府には「信認」は得られそうにない。「国債の危機」の背後にある「国の危機」(政治の機能不全)をどうすれば克服できるのかについても、さらに踏み込んだ議論を聞いてみたい気がする。
まつだ・ちえこ
首都大学東京大学院教授(経営学)。東京外国語大学外国語学部卒業、仏国立ポンゼ・ショセ国際経営大学院で経営学修士号取得。日本長期信用銀行、ムーディーズジャパン格付けアナリスト、コンサルティング会社パートナーなど経て、2011年より現職。
朝日新書 798円 225ページ
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