高校商業科でのアントレプレナーシップ教育、カギは「可能性に気付くこと」 スーパースターでなくとも、起業の裾野広げて

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近年では、普通科も含めた多くの学校で、地元企業や外部団体と連携した「探究学習」が行われるようになっている。だが商業科では、探究学習や地域連携が注目されるずっと前から、同様の学びに取り組んできた。

例えば、商業科の伝統ともいえる「学校デパート」は、昭和・平成から続いてきた。これは生徒が考案した商品や地域の特産品などを生徒自ら販売するイベントで、企画から仕入れ、会計報告までを実際に体験するものだ。地元企業や商店街と連携した地域活性化事業も多くあるほか、近年は外国人観光客の増加を反映し、観光系の取り組みも増えている。世相や時流と切り離すことのできない商業を学ぶため、時代に即した実践的なプロジェクトが行われてきたのだ。

高校時点での教育は効果大、可能性に気付けば未来も広がる

各校で行われるプロジェクト自体は、決して奇抜なものではない。例えば、北海道函館商業高校では市内の飲食店と協働したお弁当を開発・販売した。また、奈良県立商業高校では、地元図書館でのカフェ運営などにより、地域の居場所を提供している。共通点は、生徒自身が地域の課題やニーズに向き合い、地域の大人と関わり合いながら、ビジネスによる解決策を導き出したことだ。

気候変動で漁獲量が激増するブリを活用した「鰤弁」を、函館駅で販売する函館商業の生徒たち(左)。奈良県立商業の図書館での活動。物販も行う(右)
(写真:各校提供)

昨今は大学でもベンチャー創設に力を入れているが、髙見氏は、より早い段階でのアントレプレナーシップ教育を推奨している。

「高校の商業科での取り組みは、近年の大学発ベンチャーの動きよりもずっと長い歴史があります。その分の蓄積があるし、高校のほうが地域格差も少ない。また最近では、若年期・思春期のアントレプレナーシップ教育の有効性を主張する研究も出てきています。早い時期に起業家精神を身に付ければ、未来の選択肢も広がり、その効果は大きくなりやすいと考えています」

北海道札幌東商業高校では、地元バスケットボールチームの盛り上げ策を企業の担当者に提案した(左)。マンガ倉庫のリユース店「3Rd」の運営に取り組む宮崎県立富島高校の生徒(右)
(写真:各校提供)

髙見氏は長年の経験の中で、学びの効果が表れた実例を何度も目にしてきた。「自分は社長をやるタイプじゃない。でも起業する人を支えたい」と、大学に進学して税理士を目指すようになった卒業生もいれば、いったんは大企業に就職したものの「ここでは自らの起業家マインドが生かせない」とすぐに転職し、新たな職場でITインフラを大改革した卒業生もいる。

「地域密着の会社を起こしたいと考える生徒や、地元のベンチャーに就職した卒業生にも出会いました。アントレプレナーシップ教育を経験した生徒たちは、仲間や地域の大人との協働を通じ、組織の中で何ができるかを知っていきます。自分の適性ややりたいこともわかってくるので、進路選択やその先の生き方にも影響する。生徒本人も保護者も、商業科での豊かな経験や学びを通じて、将来の可能性に気が付くという経験をするようです」

髙見氏が語る「可能性に気付く」という点は、高校商業科のアントレプレナーシップ教育における重要なキーワードかもしれない。生徒が自分の力に気付くだけでなく、地元の人が地域資源の可能性に気付くということも起きている。

例えば岐阜県立岐阜商業高校では「株式会社GIFUSHO」を立ち上げ、長く地域振興のビジネスを行ってきた。同社の実績のひとつに地域の和菓子店と行った「鮎菓子」のアレンジがある。その名のとおり、鮎をかたどった岐阜県の郷土菓子で、求肥を包むカステラ生地は通常はこんがりとしたきつね色だ。だが岐阜商の生徒が「鮎菓子ってかわいい。色をつけたり、顔を変えたりしたらもっとかわいいのでは」と提案したのだ。こうして生まれた新しい郷土菓子は地元のメディアに紹介され、地域の販売会でも人気を博した。

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