民間企業に転職、学校の外から「公教育のアップデート」推進する元教員の覚悟 さる先生こと坂本良晶氏、ICT導入のつなぎ役に

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自分自身が実践する授業に対する評価も、デジタルツール活用の発信の後押しになったようだ。

「デジタルツールを使った授業というと、どうしても低く見られがちでした。自分は国語の『やまなし』を題材に、子どもたちが協働的に学び、表現する授業をCanvaを使って行っています。日本が培ってきた伝統的な教育と、最先端のツールの融合ですね。

国語の授業研究を第一線で行っている先生方にその授業を見ていただいたところ、高い評価を受け、手応えを感じました。GIGAスクール構想で風向きが変わりましたが、学校現場にはまだICT導入に対する抵抗感もあります。それをほぐしていくのも僕のミッションだと考えています」

坂本氏は、デジタルツール導入の遅れは学校現場の課題の一つだと指摘する。昨年末に文科省が行った調査では現在も95.9%の学校が業務にFAXを使っていることが明らかになり、2025年度までに学校における押印・FAXは原則廃止となった。

「留守番電話が入って『最新テクノロジーだ!』と喜んだという話があるくらい遅れています。文部科学省が決めたFAXの原則廃止に対し、教員からの反発がありますが、変化を起こすチャレンジをしないと変わりません。新しいテクノロジーを受け入れるマインドセットは必要です。実際、働き方を変えるという点でもデジタルツールは大きなインパクトを与えることができます」

では、坂本氏は民間企業で具体的にどんな仕事をするのだろうか。

「基本的には自治体と会社のつなぎ役です。Aという自治体でCanvaを導入したいとなったら、導入のお手伝いから研修までさせてもらいます。僕はCanva Education アジア太平洋日本地域マーケティング統括マネージャーとして、アジア太平洋日本地域の教育DXを引っ張っていくポジションなので、ゆくゆくは韓国やインドネシアの先生たちと何か交流できればいいなと思っています」

自分が離れても次世代が必ず活躍してくれる

これまで学校教育でさまざまな実践を行ってきた坂本氏。学校現場を離れる怖さや未練はないのだろうか。

「現場を離れると決めたので、気持ちの区切りはついています。やはり学校現場では20〜30代の先生が、プレイヤーとして生き生きと活躍するべきですよね。僕も40歳になり、管理職になることを求められる年代になりましたが、自分が管理職になるのはちょっと違うなと思いました。誰しも得意不得意がありますが、僕は細やかな管理をするよりクリエイティブに何かを創造するほうが得意なタイプ。3年前にGIGAスクール構想が始まったとき、教務主任を打診されましたが、断りました。タブレットを使った実践をプレイヤーとしてやりたかったからです。今思えば、断って正解でした」

しかし、これまで授業改革や働き方改革を率先して進めてきた坂本氏の退職は、学校現場や同僚にとっても大きな痛手になるのではないだろうか。すると、坂本氏は笑ってさらりと否定した。

「僕がいなくなることで『頼れる人がいなくなってしまった』と誰かが感じたとしても、それは一瞬のこと。すぐに忘れますよ。もちろん必要な引き継ぎはしましたし、何より学校現場では次の世代が成長してきますから。むしろ、僕がいなくなることで次の世代が出てくるはず。2023年にグローバルティーチャーの正頭英和さんと一緒にEDUBASEというコミュニティを作ったことも大きいですね。EDUBASEでいろんな先生とつながって、みんなでチャレンジできる環境が整いました。そんな後輩の実践をエバンジェリストとして広げていくのが僕の役割なのだと感じています」

教員からの転職はリソースの最大化

民間企業から教員、そして再び民間企業へ。2度目となる今回の転職について、坂本氏は「自分のリソースの最大化」と表現する。

「公立学校のプレイヤーという強みを最大限に活かせる道だと思っています。もちろん、私立学校だからできることもたくさんありますが、公立学校の教員はリソースも限られる中、27時間と非常に多い授業数を担当します。その中でいろいろなことにチャレンジしているからこそ再現性も高いですし、多くの方に耳を傾けてもらいやすいと思うのです」

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