熊谷市全域で民間主導の子ども食堂、「福祉の枠」を超えて大人も幸せに 大学や企業とも幅広く連携、多方面にメリット
「意識したのは『まず、大人も幸せにいてください』という言葉。これは川崎市の子ども権利条例に対して子どもが寄せたメッセージで、大人が幸せでなければ子どもも幸せにはなれないというものです。だから私も取り組みを楽しんでいるし、お仕着せの『福祉』をやっている感覚はまったくありません」

「黄色信号」の人を赤信号にさせない、民間での活動意義
熊谷こどもまんなかネットワークの代表である山口純子氏は、加賀崎氏とともにこのプロジェクトに取り組むメンバーの一人だ。子ども食堂「熊谷なないろ食堂」を始めとして、ひとり親家庭のサポートや子どもの学習支援などを長く行ってきた。同氏もやはり、「ご飯が食べられない子どもなんて本当にいるの?」「都合のいい場所にされてるんじゃない?」などと聞かれることがあるという。民間がこうした取り組みを行う意義について、山口氏はこう説明する。
「子ども食堂に疑問を持つ人は、例えば『朝食は食べられないが、それ以外は何とかなる』『食事はとれるが新しい体育着を買うことができない』という程度の家庭は、人に頼るほどの窮状ではないと感じるかもしれません。でもこれはいわば黄色信号で、行政の線引きでは取りこぼされてしまう人たちです。そのままでは赤信号になってしまう恐れがあり、赤になってしまったら、誰かに頼る気力さえ残っていないケースがほとんど。だから私たちがまず目指すのは、黄色信号の人を赤信号にさせないことなのです」
公的支援のあり方にも課題を感じているが、うれしいことに行政とのつながりも生まれ始めている。加賀崎氏が教える立教大学のチームが、社会課題解決の企画コンテスト「チャレンジ‼️ オープンガバナンス2022」(東京大学主催)にこの取り組みで応募し、グランプリを受賞した。その際には同氏と学生が埼玉県の大野知事に受賞報告を行い、激賞を得た。また熊谷市の若手職員も協力的で、授業から発展した勉強会「Salone de "GLOCAL"」も実施している。今後は市役所の窓口で子育て世代にチラシを手渡すなど、子ども食堂について周知を行う予定だ。

山口氏の「一度動き出したら、そこからは一気に広がっていくと実感しています」という言葉に、加賀崎氏も大きく頷いて言う。