大学生のマルチ被害額で最大50万円が多い訳、「SNS」「モノなし」で拡大する罠 「お金がないので」という断り文句は通用しない
また、SNSでは、実際にマルチを首謀している者を特定し、つかまえるのも困難です。ロマンス詐欺も同様ですが、最低限相手の本名と住所がわからないと、事件として対処できない。加えて、昨今は『モノ』ではないものが商材にされており、余計に首謀者にたどり着くのが難しくなっています」
最近のマルチは「モノなしマルチ」と言って、投資の権利や暗号資産、副業紹介など、商材に実体がないケースが増えている。
「若者は『名前は聞いたことがあるが、実態や評価はわからない』ものに引っかかりがちです。暗号資産などはその最たる例。やらなければ乗り遅れるという雰囲気が蔓延していて、それにのまれて焦燥感が出たところに付け込まれるのです」
大学生でも50万円以下の融資を受けられる構造も問題
マルチ勧誘の被害は宗教勧誘の被害と似ていて、本人が信じ込んでしまうため、本人から相談に来ることはほぼないという。心配した家族や友人が第三者や専門家に相談して助言を受けるが、その後本人を説得しても、納得させられるケースは少ない。
「本人が被害に気づくのは、その会社が行政処分を受けたり、裁判で負けたりしたときです。そのときにはすでに、説得してくれた人との人間関係が壊れてしまっていることも。若者にとって大事な人の信頼を失うことは、お金の被害以上に大きなダメージとなり得ます」
被害額は、大学生は最大50万円であることが多い。そもそも20代の若者はお金をあまり持っていないため、お金の調達先は消費者金融になりがちだ。貸金業法には融資規制の規定があり、収入の3分の1を超える融資は認められていない。また、1業者から50万円を超える融資を受けるには正規収入の証明書が必要になる。
ただし、1業者につき50万円以下の少額融資であれば、給与明細などの収入を証明する書類を提出する必要がない。必要なのは本人申告の融資文書のみ。つまり、大学生でも借りることができるのだ。マルチ被害の原因は、大学生個人が融資を受けられる構造にもあると坂東氏は指摘する。
「大学生がマルチ勧誘を受けて『お金がない』と抵抗したら、勧誘側は消費者金融を勧めてきます。借りても少額だから、すぐに稼いで返せる。そう説得して、融資文書の書き方も指南してくるのです。当然、ある程度の収入がないと融資は受けられない。だから、正社員と書かせたり、収入欄に本来の収入を超える額を書かせたりします。勧誘側は細かく調査しない貸金業者を心得ています。いわば、融資文書をでっちあげさせるのです。
本人は虚偽の申告をした罪悪感があるため、周りに相談したり勧誘側を責めたりしづらい。最終的に騙されたとわかってからも、ウソをついて融資を受けたとなれば消費者金融に救済を求めることも困難です。そうやって巧みにマルチにからめとられていくのです」