「TSMC熊本進出」のあまり語られない本当の理由 当然、背景にはアメリカIT大手の存在がある

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TSMCは2021年3月に日本政府からの190億円の助成を受けることで後工程向けの3DIC研究センターをつくば市に設立したが、それは業界内でお付き合いとも言われているもので、前工程に関してはコストメリットがないため前向きな回答はなかった。

車載半導体不足で潮目が変わる

この流れが変わったのは2020年末から自動車向けの半導体不足が顕著になったためだ。2021年に自民党は半導体戦略推進議員連盟を設立した。同年5月21日には初会合を開き、その中で甘利明会長は「日本にとって半導体戦略は今後の国家の命運をかける戦いになる。この議連がその先陣を切っていきたい」と語った。

この動きを受け経産省も積極的な交渉を始めたのは間違いないだろう。その結果、TSMCは2021年10月14日の四半期決算オンライン説明会で日本に半導体ファブを建設すると正式に明らかにした。

2021年11月9日にTSMCは正式に半導体製造を受託する子会社Japan Advanced Semiconductor Manufacturing(ジャパン・アドバンスト・セミコンダクター・マニュファクチャリング、JASM)を熊本に設立すると発表し、ソニーも少数株主として参画した。建設地が熊本なのは、熊本県菊陽町にソニー熊本TECの拡張を見込んで隣接地に工業用地を確保していたことや熊本で2000年から半導体ファブを運営してきたソニーの人員を含めた協力が得られるからだ。

なお、一部でTSMCが熊本で公害を撒き散らすなどの根拠が乏しい言説が出回っているが、ソニーが20年以上積み上げてきた環境維持のノウハウ・経験が今回のJASMにも生かされている。

ソニーの熊本拠点の拡張を見越して用地が確保されていた(出所:熊本県菊陽町)

この熊本での計画は、先に説明したTSMCが台南で進めていたFab14B計画を丸ごと熊本に持ってきたものである。しかし、このままではTSMCとソニーのためだけに税金が使われることになり、肝心の車載半導体の確保にはつながらない。そこでデンソーを少数株主に迎え入れ22/28nmノードプロセスに加え、日本では初めての12/16nmノードFin-FET技術の半導体を製造することになった。

とはいえ、製造の大部分がソニー向けであることに変わりはない。また、課題であった高コストに関しても建設費用の半分近くを日本政府が助成することになり、そのための法律(特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律)も2022年3月1日に施行された。その認定第一号としてJASM/TSMCが選ばれ最大4760億円の助成が決まったのである。

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