「家族団欒」を知らない子のために、民泊修学旅行の実態と受け入れ家庭の本音 不登校の生徒にも影響、職業観や勤労観を養う
民泊であれば、1泊分の宿泊費に2回分の食事、そして体験費用を含めても、ホテル泊と比較してリーズナブルというわけだ。
ただし、教員の負担が通常の修学旅行より軽いかというと「それはまったくの誤解です」と竹内氏は強調する。
「昼間は各家庭を訪ねて回りますし、夜間もすぐ駆けつけられるよう構えています。山仕事や畑仕事をする分、怪我のリスクも大きいので心配ごとは絶えません。生徒たちのチェックポイントもグループごとに全て確認しなければなりませんし、修学旅行前後には、近所の病院や警察署に挨拶まわりも行いますから、生徒を各家庭に任せるからと言って、決して民泊が楽なわけではないのです」
「もう一泊したい」、進学後や結婚後も続く関係
一方で、受け入れ家庭はどのように修学旅行生を迎え入れるのか。
鹿児島県垂水市は2010年から140校の約1万7000人の中高生を受け入れてきた。体験内容は家庭によってさまざまだが、生徒の要望に合わせて海釣りをしたり、工芸品や郷土菓子を作ることもある。受け入れ家庭の取りまとめを行うNPO法人プロジェクトたるみず 代表理事 内薗紀文氏は次のように話す。
「現在の登録家庭は五十数軒です。学校の規模は10名から8クラスまでと幅広いですが、垂水市周辺には、鹿屋市をはじめ民泊修学旅行を受け入れている地域が複数あるので、受け入れ家庭が足りない場合にはお互いに協力しています。なお、鹿児島県の条例で、受け入れ家庭には救急法や衛生法の研修受講、各ツーリズムの承認などの条件があります。私たちも年に1〜2回研修を行っており、受け入れ家庭同士でも情報共有をされているようです」
垂水市では、受け入れ家庭によって食事内容に差が出ないように、特産品を使った統一メニューを決めたり、アレルギーについて事前に学校と確認するなど、トラブルへの備えも進めている。住宅設備も、全家庭にウォシュレットつきの水洗トイレがあり、「生徒たちの家庭とそう変わらないはず」なのだそうだ。
「当初は『知らない家には泊まりたくない』と言っていた子も、最後は『明日も垂水に泊まりたい』と言ってくれたりします。後日、家族で垂水まで旅行に来てくれたり、その後も進学・就職の報告や、結婚式に招かれた例もあるようです」
修学旅行には不登校の生徒が参加することもあるが、宿泊を通してほかの生徒と交流が深まり、それ以降登校するようになったという連絡を受けることも一度や二度ではないそうだ。全員にとっての見知らぬ土地で、初めて出会う人と過ごすという環境がそうさせるのか。新鮮な体験が、生徒にとって新たな価値観との出会いにもなる。
「この辺りはご近所付き合いも強い地域ですから、お隣さんが野菜やお菓子を差し入れてくれることも。それに感動して『私も帰ったら、近所の人に声をかけたい』と言った生徒さんもいました」
コロナ禍でも修学旅行生を受け入れ続けた垂水市
生徒たちとの交流は、垂水市や受け入れ家庭にもポジティブな影響を与えている。探究型学習と結び付けて、事前に垂水市について学んだ生徒からは、「桜島は噴火していますか?」「垂水市でのSDGsの取り組みは?」という質問が来ることも。垂水市を知ってもらう良い機会になっていると内薗氏は語る。