学童保育の待機児童や質低下、問題解決に「学校施設の活用」が必要と言える訳 海外に比べ「子どもの権利」の視点が欠ける日本
放課後のあり方も「子どもたちの声」を聞くことが大切
2023年3月に公表された「放課後児童クラブ・児童館等の課題と施策の方向性」(社会保障審議会児童部会放課後児童対策に関する専門委員会取りまとめ)では、子どもたちの豊かな放課後に向けて「学童保育と放課後子供教室の一体型」が推進されているが、池本氏は次のように語る。
「放課後子供教室の定義自体が曖昧です。保育に欠けている子と欠けていない子が一緒に遊べる場とするところもあれば、地域の人が何かを教えに来る場とするところもあるなど、取り組み内容や実施回数は自治体によってさまざま。運営はボランティアが基本でほとんど予算がついておらず、子どもが集まらないケースもあるようです。子どもたちのやりたいことができる放課後には必ずしもなっていないのではないでしょうか。やはり、豊かな放課後のためには、学校施設の有効活用を推進すべきだと思います」
好事例は少ないが、学校施設を利用した学校教育時間外の取り組みは日本にもある。例えば八王子市では今年の夏休みに、猛暑による安全・衛生面などを鑑み、給食調理室を活用して手作り昼食を学童保育の児童に提供した。NPOと連携し、小学校施設を活用して児童が多様な体験や活動ができるようにしている私立学校や自治体もある。
「日本は、学校教育時間外の子どものケアは家庭か福祉の範疇だという考え方が強いですが、いじめや不登校、暴力行為の増加、体力低下、体験格差など課題が多い現状を考えれば、学校教育のあり方を放課後も含めて検討すべきで、学校教育時間外の学校施設を子どものために有効に使っていく必要があると思います」
例えば、放課後や休日も悩んでいる子が立ち寄れるよう保健室を開ける。図書室や音楽室、家庭科室、図工室、コンピューター室などを活用して習い事に通う経済的な余裕がない子どもの活動を支援する。海外のように自由な遊びを保障する観点から校庭を含め学校施設の整備を見直す――こうした活用を池本氏は提案する。
「オーストラリアは小学校の校長会代表と学童クラブ組織代表が連名で、望ましい連携のあり方を文書にまとめて政府から発出しています。このようにモデルケースを示すだけではなく、誰もが取り組めるようなガイドラインを国が示すことも大切だと思います。しかし、まずは学校をどう使いたいか、学校にどんな場所がほしいか、子どもの声を聞くことが重要。海外は、子どもコミッショナーが子どもの代弁者となって少しずつ政策が変わってきましたが、日本では子どもコミッショナーの設置が見送られました。子どもたちが意見や疑問に思ったことを訴えることができる仕組みを学校や自治体などでつくり、放課後のあり方についても子どもたちの声を聞くことが大切です」
学童保育の待機児童問題について、こども家庭庁と文部科学省は連携していく方針で、年末をめどに対策を取りまとめるとしている。こども基本法が施行された今、子どもの権利を重視した対応が望まれる。
(文:國貞文隆、編集部 佐藤ちひろ、注記のない写真:zon/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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