学童保育の待機児童や質低下、問題解決に「学校施設の活用」が必要と言える訳 海外に比べ「子どもの権利」の視点が欠ける日本
「今、小学校では不登校やいじめ、暴力行為が増えていますが、学校自体が子どもにとってストレスフルな場になっていると考えられます。そのため『放課後まで子どもを学校に滞在させたくない』と考える保護者もたくさんいます」
一方、海外では、校舎も校庭も居心地のよさを重視した空間整備が進んでおり、学童保育も「子どもにとってよいことは何か」に基づき運営されているという。その差は何なのか。
「日本は子どもの権利条約の認知が低く、学校の先生もご存じない方がいらっしゃいますが、海外では行政から独立した立場で子どもの権利条約の周知や子どもの権利が守られているかなどの調査をし、必要な改善を勧告する権限を持つ『子どもコミッショナー』が置かれていて、子どもの権利の観点から制度がつくられています。例えば、オーストラリアでは、18時以降も預かる学童保育は認可されません。英国では政府が2005年に、18時までの学童保育とスポーツや芸術など多様な活動をすべての学校で提供する方針を打ち出したり、最近では貧困家庭の子が夏休みに無料で昼食付きの学童保育に通えるようにしたりしています。また、国の機関は、子ども会議を設けたり、活動のルールづくりや空間づくりに子どもが参加したりする学童保育を、優れた学童保育として評価しています」
前述の海外における校庭の改造・開放の動きも、子どもの権利条約31条「遊びと休息の権利」の保障に向けた取り組みだという。中でもイングランドは学校の整備や活用に力を入れており、1990年に教育・科学省が報告書を通じて、おしゃべりなどをするベンチやテーブルの重要性を指摘するなど、見た目の美しさや授業活用にとどまらない校庭づくりのあり方を示した。2003年に校庭を改造した学校を対象にした調査回答では、「いじめが減った」「学習意欲が改善した」「学力が向上した」などの成果が報告されているという。
「ウェールズも、子どもの遊び環境が十分であるか定期的に評価することを自治体に義務づけており、木登り、火や水や土を使う遊び、音楽やダンス、廃材遊びなど、自由で創造的な遊びの保障を重視しています。21年のイングランドとウェールズで行われた調査では、学校における遊び環境の改善によって教員の見守りの負担が減ることも確認されました。一方、日本では校庭で木登りもできなければおやつを食べるテーブルやベンチもなく、放課後に体育館で自由に遊ぶこともできません。学校も学童保育も、海外に比べて管理が優先され、子どもの権利の視点や議論が欠けていると感じます」
とくに学童保育は女性活躍や少子化対策という文脈で増やしてきたため、質の議論が置き去りにされてきたと池本氏は言う。実際、ニーズの増加とともにすし詰め状態になっている学童保育も少なくない。中には騒音で難聴になる子もいるという。重大事故も増えており、こども家庭庁によると、22年の学童保育における事故報告数は565件となった。環境改善とともに、学童保育職員の処遇改善が必要だと池本氏は話す。
「児童を一人ひとり丁寧に見たいと思っても、100人規模となると、子どもを黙らせたり、ケガをしないように何もさせなかったり、管理する仕事が中心になってしまうこともあるでしょう。そのような環境では学童保育職員のモチベーションも低下してしまいます。小規模化や職員配置の充実は子どもの環境改善に必須だと思います。そもそも賃金が低く勤務日も安定しておらず、志を持った人材が従事できる労働環境になっていません。スウェーデンでは、学童保育の教員の多くが学校でスポーツや創作活動などの科目を受け持っていますが、そのように学校と学童保育の仕事を組み合わせてフルタイムにできる形なども含め、学童保育職員の雇用の安定を図る必要もあると思います」