1カ月で8割が読書好きに、AI選書サービス創業者が語る「読書離れ」解決の道 ヨンデミー代表・笹沼颯太「読める=学ぶ力」
「私たちのサービスは、そのナンシー氏の学習モデルを参考にしています。日本でも澤田先生のように実践されている先生方はいらっしゃいますが、すべての学校で展開するのは現状難しい。だから私たちは、先生がいなくても子どもたちが読書家になれるよう、この学習モデルをオンラインによってどう実現できるかを追求しようと、大学の仲間と一緒に会社を立ち上げることにしたのです」
笹沼氏は当初、NPO法人を立ち上げることを考えた。しかし、本を読めない子どもたちは全国にいる。とくに教育資源へのアクセスが容易ではない地方の子どもにリーチするには、低単価のサービスを広く提供する必要がある。それを可能にするためにも、ベンチャーキャピタルから資金を調達し、株式会社にすることを選択した。
3カ月で約4割が「毎日読書」、学習にもポジティブな影響
現在4期目、社員数は代表の笹沼氏を合わせ3人。ほかに東大生を中心とした学生インターンも含めると20人前後の組織体制となる。サービスは最初の30日間が無料で、それ以降は月額2980円で提供しているが、ユーザー数は累計5000人を超えた。
絵本の読み聞かせが終わって1人読みが始まった頃から『ハリー・ポッター』が読めるくらいの段階までが支援対象なので、ユーザーは小学生が多い。小学生になって教科書が読めない、テストの文章題を理解できないといった悩みを持つ子どもが入会するケースが多く小学1~3年生がメイン層だが、会員には中学生もいる。
同社の競争力の源泉は、AIによる選書にある。とくに選書をするためのデータベースづくりが丁寧だ。1冊を2名体制で読み、ジャンルやテーマだけでなく、主人公の性格や物語の舞台、読者がどんな気持ちになるのかなど細かい点も含めて内容をすり合わせて確認し、難易度や文字量なども独自に分析してデータを作り上げている。これまでチームで2000冊以上の絵本や児童書を読み込んできた。
「私たちのデータは一朝一夕に作れるものではありません。当初はこのAIの選書サービスだけでスタートしましたが、ゲーム性やモチベーション管理の仕組みも整った現在は、親御さんはアプリに任せておけば子どもが勝手に本を読むようになるサービスになりました」と、笹沼氏は自信を見せる。

実際、同社の利用者データによると、サービス利用開始から1カ月後に8割以上の子が読書を好きになり、3カ月後には約4割の子が毎日読書するようになっているという。また、子どもの成長を感じる点として読む量や読書に対する態度のほか、言葉の変化を挙げる保護者が多いそうだ。
「3カ月で100冊ほど読むようになる子もいるのですが、そうなると語彙は急速に増え、話す言葉も変わるんですよね。親子のコミュケーションが活発になったというご家庭は多いです」と、笹沼氏は話す。学習に前向きになる子どもも多い。
「テキストが読めるようになるということは学ぶ力がつくということ。全国統一小学生テストで偏差値が1年で20上がったケースや、学習障害を疑われていたお子さんが、本が読めるようになったことで自信がつき、友達に勉強を教えるようになるほど学力が向上したケースもありました」
本をまったく読まなかった子が本を読むようになることで、どのような効果が生まれるのか。同社は将来的に、その研究成果を公開するつもりだ。
「今の日本の読書の課題は、教育的な効果を検証できていないこと。文部科学省の調査も読書の記録は冊数だけで、本を読んでいる子と読んでいない子を比べることしかできず、『頭がいいからたくさん読むようになるのでは』という見方を否定できない研究になっています。私たちは、1人の子がどう変化するのか、それもどんな本をどれだけ読んだかという詳細なデータを蓄積しています。長期的には、学習指導要領の改訂にも生かせるような形でエビデンスを示したいと考えています」
子どもが読書に親しむようになる働きかけとは?
子どもの読書離れは以前から指摘されていることだが、現状の要因としては「動画やゲームの存在」だと笹沼氏は見ている。読書は頭を使って文字を追わなければならないが、動画なら見るだけでいい。だから読み聞かせは好きでも、自分で本を読むことが嫌いな子どもが多いという。