現地では、このプロジェクトの様子がメディアにも取り上げられ、地元住民の方からも高い評価を得たのです。実際、このプロジェクトを進めた生徒にどんな未来にしたいかを問うたら、「探究を通じて、実体験を得ながら自己理解を深め、社会に出たときに自分で考えて行動できるとワクワクできるのではないか」という答えが返ってきたそうです。
この話を聞いて、私は誰かに与えられた問いに答えるのではなく、自ら考え行動したからこそ、その問いは自分事となり、生徒たちを動かし続ける内発的動機になっているのだと感じました。
実際、所得、学歴よりも「自己決定」が幸福感に強い影響を与えていることが明らかになっています。山藤先生からも国内2万人に対するアンケート調査の結果が示され、自己決定できる自律型学習者を育てることで、ウェルビーイングが醸成されるのではないかという見解が示されました。
しかし、それは「『全部自分で考えなさい』と放り出すことではなく、本物の社会貢献活動に触れること、そこに取り組んでいる大人の存在が欠かせません」と山藤先生は言います。
つまり、大人自身が探究する姿を見せることが生徒たちのモデルになり、社会に出て自分はどう生きていくのか、そのために何を学びたいのかを考えることにもつながっていくのです。
新渡戸で「大学進学後の進路先の満足度が100%」な訳
では生徒たちが、自分でやりたいことを見つけて社会に出ていくために、高校では具体的にどのような進路指導をしているのか。また高大接続はどうなっているのでしょうか。
今回のセミナーでは、第3部「ウェルビーイング教育を実践するために」で、平方先生・石井先生・山藤先生によるトークセッションが開かれました。
実際のところ、普通科高校が7割を占める日本の学校制度は複線型の授業ではなく、大学受験をゴールに組まれているようなところがあります。だからこそ、高大接続が議論され大学入試改革から日本の教育改革を行おうとしていました。
しかし、2021年に公平性の文脈でその改革が先送りとなり、実際に大学入試改革やそれにまつわる教育改革が行われるか疑問視する声もあります。長く、高大接続に関する委員を務めた平方先生からも、そうした経緯がウェルビーイング教育でも繰り返されなければいいがという危惧も示されました。
ただ、実際は大学入試の約5割が学校推薦型・総合型選抜になっている現実もあり、生徒の将来の扉を開くうえでは、やはり生徒自身が何をしたいのかを探究していくことは重要になっています。

新渡戸文化中学校・高等学校 キャリア・ラーニングデザインチーフ
「新渡戸でも約80%が総合型選抜や指定校推薦で進学先を決めている」と石井先生。普段から探究教育を行っているので、生徒たちはチャンスを担保する意味でも一般入試に先駆けて総合型選抜にチャレンジし、合格しているのです。
しかも大学進学後の生徒たちの進路先の満足度は100%。新渡戸文化学園の高校3年生は、偏差値にとらわれず、大学の先生の研究や人脈まで自分で徹底的に調べて受験校を決めていくそうです。
「自分の生き方に責任を持って決めていく生徒たちのウェルビーイングはすでに高いのではないか。そういう生徒たちの決定を、大人たちが自分の価値観にとらわれず子どもたちの未来を応援していくことが大切だ」と山藤先生。