前述した研修会・研究会などは、県や全国レベルでの統一的な改革が必要だ。「頭では変えたほうがいいと理解できていても、やはり前例踏襲のほうが楽。変化を避けて現状維持を選ぶ人たちにとって、私のように変革を試みる民間人校長は『早く去ってほしい』というのが本音の多くだったように思います」と高野さんは当時を冷静に思い返す。
教育現場だけが突出して多忙なわけではないはず
「もちろん、民間企業のやり方がすべてよく、学校のやり方がすべて駄目ということではありません」と前置きしたうえで、高野さんは学校運営の問題点を次のように指摘する。
「教員の多忙さが話題になっていますが、世の中全体を見回してみてください。忙しく働いている人は山ほどいます。教育現場だけが突出しているわけではありません。教員の多忙化解消のためとして部活動を学校から切り離すような最近の風潮には、もっと慎重な対応が必要だと感じます。学校が主体性を手放して子どもたちが指導者に恵まれなかった場合、外部の勢力に振り回される悲劇的な状況に陥る可能性もあります」
問題は、環境が変わっても前例を踏襲し続ける仕組みだ。部活動を担当する教員とそうでない教員がほぼ横並びの給料や待遇である状況は「どう考えてもおかしい」と高野さんは話す。得手不得手を加味した評価基準の設定が必要だろう。
「大企業などがない地方ではとくに、正規の教員はある意味で特権階級なんです。極めて恵まれた休暇制度などがあり、その制度を成り立たせるために、劣悪な待遇で働いている非正規教員が存在する。教員にはもっと下積み期間を経験させて社会についてよく知り、こうした現状にも考えが及ぶ人であってほしいものですね」
高野さんが校長の任期を終えるとき、教育委員会から「民間人校長制度」の成果として教育現場の改善に意見を求められることはいっさいなかった。それどころか、後任の校長には教育委員会の幹部が送り込まれていた。いったい改革はどこまで進んでいるのか……高野さんは今でもスッキリしない気持ちを抱えている。
(文:中原美絵子、写真:Fast&Slow / PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部
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