「研修会・研究会の多くは、生徒たちの授業を自習にして実施します。研究大会の主催校ともなると、参加する教員のためにホテルの手配まで行わなければなりません。研究大会の前日には歓迎行事もありましたが、そこでの出し物なども主催校の教員が準備します。そして大会後には報告書を作成しなければなりません。報告書には、開会式の『おはようございます。』から一言一句の記録が記載されていました。教員がこういったことに膨大な時間とエネルギーを費やすのは大きな無駄だと思いました」
一部の研修会・研究会は、教員同士の意見交換でイノベーションを起こすという本来の目的を見失い、形骸化しているのかもしれない。
改革進める民間人校長には「早く去ってほしい」という雰囲気
高野さんが違和感を感じたことがもう1つ。それが「鍋ぶた型」の組織形態だ。校長と教頭がちょこんと上に飛び出しているだけで、ほかの教員は主任も新任も横一列で平等。「教員の多くは社会経験に乏しく社会の現実に疎い状態だった」と高野さんは評する。
「例えば、入学式には県教育委員会の方やPTA会長など来賓の方々、保護者の方々など列席者もいらっしゃいます。しかし、司会進行役の教員は『一同起立、一同着席』と号令をかけるんです。翌年からは『皆様、ご起立ください』に変えてもらいましたが、敬語や丁寧語が使えない教員が多く、年上の保護者にもこうした配慮がない点は違和感でしたね」
「鍋ぶた組織」では、新任教員も初日から「先生」と呼ばれ、先輩や上司に当たる人から注意されたり、起案文書を修正されたりすることがほぼないという。また生徒がスポーツ大会などに出場するとなると、OB・OGや保護者、地元商店街の方々などから差し入れをもらうこともある。それに対して「一言、『今回は決勝戦まで勝ち進むことができました。貴重な差し入れをありがとうございました』と電話でも入れるのが社会人の礼儀作法だと思うのですが、そうしたこともいっさいない。1つの例ですが、やってもらって当たり前、と考えているような気がして、問題だと思いました」と高野さんは振り返る。
校長を務めた期間、高野さんはできる限りの改革を行った。会議は極力少人数で行うようにし、「職員会議万能主義」から小集団専門チームでの検討方式に変えた。民間企業でいう部長会や課長会のイメージだ。鍋ぶた組織を緩やかなピラミッド組織に変え、会議資料の簡素化や会議時間の短縮化も進めた。「ただ、個別の学校現場で完結する改革も多いが、それ以上に県全体・国全体から変えなければ難しいことも多かった」と悔しさをにじませる。