国立市が東大とタッグ、「フルインクルーシブ教育」に本気で動き始めた背景 原則「すべての子どもが同じ場で学ぶ」を目指す

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日本はこの10年間で特別支援学級の在籍者が約2倍に増えていますが、通常学級での差別や排除の拡大が背景にあると考えています。特別支援を望む当事者やそのご家族の多くが、おそらく通常学級で悲痛な体験をされていると思うのです。国立市の今回の取り組みは、そうした差別や排除をどうしたら制度的になくせるかという挑戦でもあると捉えており、私としてもそこにしっかり取り組みたいと思っています。

教育行政上、難しいこともあると思いますが、「国立市ならできるのではないか」という期待感があります。国立市には市民の声に耳を傾け福祉を充実させてきた歴史があり、すばらしい人材が多くいらっしゃいます。今日も市内の学校に伺いましたが、非常にやる気のある先生とたくさん出会えました。インクルーシブ教育をやりたくて国立市に転任してきた先生もいらっしゃるんですよ。

全国にも「教室にいる児童生徒がなぜ分けられなければならないのか」と現状に疑問を持っている先生は多いと感じます。実際、バリアフリー教育開発研究センターで毎月行っているインクルーシブ教育のオンライン定例研究会には毎回2000〜3000人の申し込みがあり、その約3分の1を教員の方が占めています。その先生方からは、現場の現状に疑問を持っても一人では孤独で無力だという声を多く聞きます。そういう方々にとっても、今回の国立市の取り組みは「すごい援軍が現れた」と希望を感じるものだと思います。

「人間らしい営み」を通じて不登校の子も減っていく

──教員の意識改革や、保護者や地域の理解が必要だといったお話が出ましたが、どのようなマインドが大切になりますか。

小国 欧州の学校では、教員や地域住民も当事者として学校づくりに参画し、一人ひとりが尊重されます。そんなふうに、すべての児童生徒が自分らしく学ぶうえでは、教員や地域住民が生きがいを持って関わることが大切になります。児童生徒・教員・地域住民の三者がいかにハッピーになるか。そのモデルをみんなで模索しながらつくっていくのです。

新しいことをやるときは抵抗感があるものですが、これはやっていくと楽しいですよ。私が関わった大阪市立大空小学校でもそうでしたが、インクルーシブ教育を実践すると、教員も保護者もやりがいや達成感が味わえるようになり、すべての子どもが大切にされるようになって不登校の子も減っていきます。

ただし、一人ひとりが自分らしさを持ち込めば、当然いざこざは起こります。これまでの学校現場はそうならないようルールで押さえ込んできたわけですが、ルールを作りすぎた結果、不登校や教員の精神疾患が多いといった現状があるのではないでしょうか。インクルーシブ教育は、人間同士の厄介な関係の中でお互いを深く知り合う「人間らしい営み」であるという考え方が、国立市でも大切になると思います。

橋本 夢のある取り組みにしたいからこそ、地に足を着け、関係するさまざまな方々とプロセスをしっかり議論して理解し合うことが必須だと考えています。同時に、今支援を必要としている方への対応も試行錯誤しながら進めていきたいと思っています。

荒西 私はもともと教員だったのですが、この取り組みに携わっていると、教育が本来の姿に向かっているという感覚がありワクワクします。小国教授がおっしゃるように、楽しみながら進めていけたらいいですね。この取り組みに興味のある教員の方には、ぜひ国立市に来ていただきたいと思っています。

(文:吉田渓、注記のない写真:国立市教育委員会提供)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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