日本の女子大初、注目の「奈良女子大学工学部」開設2年目の手応えと課題 女子を引きつけた「人と社会のため」という視点
「ドイツでも何度か女性だけの工学部をつくろうという動きがあったようですが、実現されなかったと聞きます。10年ほど前からようやくジェンダードイノベーションの動きが出てきて、インドやイスラエルでは女性エンジニア育成のための国家的プログラムが進んでいますが、世界中で今、女性エンジニアの不足が課題とされています。日本でもこの問題に有効な手を打つことができていなかったため、私たちが先頭を切って工学部をつくらなければいけないと思いました」
「リベラルアーツとSTEAM」を2本柱に学び専門を決めていく
しかし、今の女子高生に工学部はまったく人気がない。そんな現状分析から、「女性にとって魅力ある工学部のあり方」について調べることから始めた。
そこで注目したのが、米国のオーリン工科大学とハービー・マッド大学だ。どちらも単科工科大学であり、男女比がほぼ半々。「欧米の大学工学部の一般的な女子学生の比率が10~15%である中、この2校は約50%の女性が入学している」と、藤田氏。その理由を分析したところ、人や社会をどうサポートするのかという視点から工学を学ぶスタンスが徹底しており、リベラルアーツ(教養)を重視しているという共通点があったという。
また今、社会から必要とされている、イノベーションを起こせるような創造的なエンジニアを育成するには、アートを含むSTEAM教育が必要だといわれている。こうした調査分析を踏まえ、「人と社会のための工学」を掲げ、リベラルアーツとSTEAMを2本柱として学び、幅広い分野から専門を選べるようにした。
具体的には、リベラルアーツとSTEAMの科目は一部必修としつつも、履修する科目や年度は学生が自由に選択できるようにし、3年生の段階である程度専門を決めていくという方針を採る。通常の工学部なら1年生から専門が決まっているが、その縛りがない。「来年3年生になる1期生は、『あれもこれも面白い、どうしよう』と迷っていますね」と藤田氏は笑う。

産学連携にも積極的だ。「本学は小規模なので、学内のリソースですべてを賄うことができません。足りないところは企業にお願いするという考えで、例えば、機械工学についてはDMG森精機と連携し、授業や卒業研究まで担当してもらっています」と藤田氏は説明する。
女性エンジニアの養成拠点となるべく、外部の学生も参加できるプログラムも提供している。主にDMG森精機、ソニー、住友電工グループがサポートする「女性エンジニア養成基金」を設立し、今年7月から中学3年生~大学4年生、高専生を対象に、工作機械技術や大規模集積回路の設計開発、AI予測ツールによるデータ分析などが体験できる「女性エンジニア養成ワークショップ」を始めた。

もう1つ、米半導体企業のマイクロンの資金援助により、60人を対象としてキャリア形成に必要な能力を育成するコーチングプログラムもスタート。同社日本法人の女性エンジニアが指導役となり、個別にオンラインで相談に乗る。