インクルーシブ教育を阻む、同級生の「お世話係」を任命する教員に欠ける視点 「困りごと」への先回りこそが成長の機会を奪う

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配慮の要らない子どもはいない、「全員に手厚く」が正解

――教員の多忙も関係していると思いますか? 働き方改革なども叫ばれていますが、配慮の必要な子どもに向き合うには時間が足りないのでしょうか。

教員は確かに多忙です。ただ、教員にとって「子どもの声をキャッチする」ということは最優先すべきことだと思うです。コンビニの仕事に例えると、目の前でお客さんが列を成しているときにレジ打ちをせず、「今忙しいので」と品出しをしていたらおかしいですよね。とはいえ、その時間すら取れないシステムになっているのも現実ですが……。

また、子どもの声をキャッチする際には障害のある子に目が向きがちですが、そもそも「配慮の要らない子ども」はいないということも忘れてはいけません。「お世話係」を任されている子どもにも、配慮すべき点があることは少なくないのです。

――お世話をする側の子どものことですね。どういった子どもが任されやすいか、傾向はあるのでしょうか。

教員の目に「まじめでおとなしく、言うことをよく聞いてくれる子」と映る子どもは、お世話係を任されやすいと思います。ただしこうした子どもも「拒否するなどの自己主張ができない子」である場合があります。しつけが厳しく、自分の意思を表明したり発言したりすることに不利益を感じるような家庭で育ったのかもしれません。家が安心できる環境でないなら、こうした子どもにも本来は配慮が必要ですよね。先生方には誰かを特別扱いするのではなく、特別扱いしなくてもいい教室のデザインを考えてほしい。そのためには「全員に手厚くする」ことが正解なのかなと思います。

――「全員に手厚くする」とは具体的にどんなことでしょう。そのメリットも教えてください。

それはつまり、子ども全員にとって安心できる教室にすることです。子どものアイデアをやみくもに否定しない、子どもの発言を大切にするといった小さなことの積み重ねで信頼関係は構築されます。信頼関係が構築され、安心できる環境なら、子どもが自分から動いてくれるようになりますし、必然的に子ども同士の関係性もよくなりますよね。

例えばクラスに全盲の子どもがいるとしましょう。子ども同士の関係性がよければ、全盲の子どもとほかの子どもの関わりも多くなる。毎日一緒にいれば、子どもは「見えないとこういうときに困るんだ」「でもこうすれば伝わるんだな」とそのパターンを理解していく。理解できたこともまた「安心」の一要素となり、手助けすることが当たり前になっていくのです。

――子どもにとっても「コンビニでいうところのレジ打ち」と同じなのかもしれませんね。

正直、それすら意識しないと思います。だって、シンプルに目の前で友達が困っているわけですからね。全盲の子に「あっちってどっち?」と聞かれて「3時のほう」と答えたら伝わったとか、発達障害のある子への対応で「〇〇くん、絵のカードで説明したらいけたで!」とか、頼られた子どもが喜んでいるのを目にしたことがあります。これが本当のインクルーシブ教育であり、人としての本来のコミュニケーションではないでしょうか。

教員ができることは、子ども同士が友達同士でいられるこうした場のお膳立てだと思うのです。お世話する側とされる側に分けると、そこに上下関係が発生してしまうおそれもある。でも友達同士なら、障害を特別に意識することなく、自然に関わることができるのです。

欲しいのは「してあげる」ではなく、対話による「理解」

――「お世話係」を作らず、インクルーシブな教室を実現するために気をつけたいことは。

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