名古屋大学・内田良、学校部活動は「本当に地域移行できるのか」問題のカギ 教員の「善意・ただ働き」という前提から脱却を
内田氏は「保護者が負担増を懸念するのは当然だが、指導には本来、対価が必要であることも理解してほしい」としたうえで、国や自治体が予算を確保して、保護者の負担を抑えることが必要だと訴える。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教育学部教授。博士(教育学)。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員
専門は教育社会学。教員の働き方、部活動、スポーツ事故や組み体操事故、2分の1成人式などの教育問題について研究している。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、共著に『迷走する教員の働き方改革』『#教師のバトン とはなんだったのか』(ともに岩波ブックレット)など
(写真:内田氏提供)
「部活動には子どもたちの放課後のスポーツ文化活動の機会保障という側面がある。家計的に余裕のある家庭の子どもだけしか参加できないような形では機会が保障されないので、国や自治体が財源を用意して保護者の家計を補助する仕組みも求められる」(内田氏)
もう1つ「異論はあると思うが、金銭的な負担を抑える仕組みとして考慮すべきだ」と内田氏が指摘するのが、民間企業からの支援だ。
「子どもを商売の道具にすべきではないという考えには強く賛同するが、公的支援も限度があり、理想にこだわると部活動そのものの継続が困難になるおそれがある。私は、部活動を何とか残したいと思っているので、持続可能な仕組みの1つとして、スポンサー企業からお金が回る仕組みも検討すべきだと思う」(内田氏)
人的リソースでは、質の高い指導者の確保が課題になる。人材バンクや大学生の活用など民間の人材の確保に努めるほか、教員全体の2割程度いるとされる「部活動に積極的に関わりたい教員」の活用も考えられる。
平日の夕方や土・日曜といった変則的な時間帯で民間の指導者を見つけるのは難しく、とくに地方では困難さが増す。指導者が見つかっても、昔の感覚で過度に厳しい指導となるリスクもある。小社の保護者アンケートでも、地域移行に反対する理由として「学校の先生の指導のほうが安心できる」という意見があった。
内田氏は「一定の基準や研修の仕組みを設け、きちんと対価を支払うことで、専門性、資質能力の担保を期待したいが、まだ地域移行が進んでいない段階で、どんな人材を集められるかなどの課題は未知数の部分が多い」と、保護者の懸念に同意する。保護者は課題を見つけたら国や自治体に対して「積極的に声を上げてほしい」と話す。
部活動の地域移行で、教員以外の大人が指導に関わることは、生徒にとってプラスもあると考えられる。「人のつながりで密で、閉じられた学校という世界の中で、問題を抱えて相談もできないときの『逃げ道』として機能することも期待している」と内田氏は話す。