地域移行の最大の障害は部活動のための人・金の確保

土・日曜の部活動指導時間は、今回調査(2022年度)で前回(16年度)より40分減って1時間29分だった。減った要因として、国が部活動ガイドラインを制定して、週末と平日各1日の週2日以上の休養日設定を求めるなど、とくに土日の指導時間を減らそうとしてきたことが挙げられる。一方で、根本的な解決策として期待される「部活動を学校活動から地域活動に移行する」各自治体の取り組みは、あまり進んでいない。

学校の部活動は「教育課程外(課外)活動」とされ、正規の教育課程以外で実施される活動に分類される。もともとは「同好会のような趣味的な扱い」から始まり、教員の“善意”あるいは“ただ働き”によって支えられていたものが肥大化してきた歴史がある。

そのため「部活動には人(指導者)やお金(予算)といったリソースが充てられてこなかった。それが部活動地域移行の最大の障害」(内田氏)になっている。地域活動は指導者らへの報酬などコストが必要だ。そこに人やお金の手当てのなかった部活動を移すには、ゼロからのリソース確保、財源や人材の確保の裏付けとなる制度の整備が必要になる。

部活動の地域移行が進まないもう1つの理由は、現状の部活動の活動時間が長すぎて、地域活動でできるキャパシティーを超えているという問題もあると内田氏はみている。

実際、部活動の時間は膨張を続けてきた。教員の部活動指導時間の推移を見ると、06年度調査では1時間6分だったが、部活の過熱を背景として16年度には2時間9分へと倍増した。22年度は前回より減ったが、依然として06年度水準を上回っている。

部活動が膨張する原因について内田氏は「部活動がとても魅力的だからだ」と説明する。「たくさん練習するのは苦しい。それでも努力を続けて勝てば大きな感動となって報われる。地区大会で近隣の学校との試合に勝って、喜びを味わいたい。そうすると、互いが競うようにたくさん練習しようとする。課外活動なのでブレーキとなる規制もなく、際限なく練習時間が延びてしまう」。

公的財源と質の高い指導人材をどう確保するか

では、具体的にリソースをどう確保するのか。金銭的リソースについて、地域移行された部活動では保護者が習い事の月謝と同様に一定額を支払うことが想定されている。実質無償で指導していた教員と異なり、地域で指導者を雇うには対価が必要になるためだ。代わりに、経験のない競技を指導するケースも多かった教員と違って、専門性のある指導を期待できる。ただ、小社の保護者アンケート調査でも、家庭の経済的負担について懸念する意見があった。

内田氏は「保護者が負担増を懸念するのは当然だが、指導には本来、対価が必要であることも理解してほしい」としたうえで、国や自治体が予算を確保して、保護者の負担を抑えることが必要だと訴える。

内田良(うちだ・りょう)
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教育学部教授。博士(教育学)。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員
専門は教育社会学。教員の働き方、部活動、スポーツ事故や組み体操事故、2分の1成人式などの教育問題について研究している。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、共著に『迷走する教員の働き方改革』『#教師のバトン とはなんだったのか』(ともに岩波ブックレット)など
(写真:内田氏提供)

「部活動には子どもたちの放課後のスポーツ文化活動の機会保障という側面がある。家計的に余裕のある家庭の子どもだけしか参加できないような形では機会が保障されないので、国や自治体が財源を用意して保護者の家計を補助する仕組みも求められる」(内田氏)

もう1つ「異論はあると思うが、金銭的な負担を抑える仕組みとして考慮すべきだ」と内田氏が指摘するのが、民間企業からの支援だ。

「子どもを商売の道具にすべきではないという考えには強く賛同するが、公的支援も限度があり、理想にこだわると部活動そのものの継続が困難になるおそれがある。私は、部活動を何とか残したいと思っているので、持続可能な仕組みの1つとして、スポンサー企業からお金が回る仕組みも検討すべきだと思う」(内田氏)

人的リソースでは、質の高い指導者の確保が課題になる。人材バンクや大学生の活用など民間の人材の確保に努めるほか、教員全体の2割程度いるとされる「部活動に積極的に関わりたい教員」の活用も考えられる。

平日の夕方や土・日曜といった変則的な時間帯で民間の指導者を見つけるのは難しく、とくに地方では困難さが増す。指導者が見つかっても、昔の感覚で過度に厳しい指導となるリスクもある。小社の保護者アンケートでも、地域移行に反対する理由として「学校の先生の指導のほうが安心できる」という意見があった。

内田氏は「一定の基準や研修の仕組みを設け、きちんと対価を支払うことで、専門性、資質能力の担保を期待したいが、まだ地域移行が進んでいない段階で、どんな人材を集められるかなどの課題は未知数の部分が多い」と、保護者の懸念に同意する。保護者は課題を見つけたら国や自治体に対して「積極的に声を上げてほしい」と話す。

部活動の地域移行で、教員以外の大人が指導に関わることは、生徒にとってプラスもあると考えられる。「人のつながりで密で、閉じられた学校という世界の中で、問題を抱えて相談もできないときの『逃げ道』として機能することも期待している」と内田氏は話す。

トップダウンで活動時間抑制を、大会のあり方も見直すべき

部活動の活動時間は、国のガイドラインで、長くとも1日当たり平日で2時間程度、休業日で3時間程度とされ、週2日以上の休養日を設けることなどが定められた。しかし、強制力はないため、“熱心な”部活顧問の中には、故意にガイドラインを無視する例も後を絶たない。

部活動に強く魅せられていたり、自分自身の思いはそれほどでなくても部活動のチームとして練習参加を求める同調圧力が強い中で「当事者が意識を変えて、自主的に活動時間を減らすことは考えにくい。トップや管理側が、歯止めになる仕組みを設けなければ活動時間は減らせない」と内田氏は話す。

例えば、負けたら終わりのトーナメント方式から交流戦方式にするなど、大会のあり方を見直し、勝利にこだわり過すぎることなく競技を楽しめるようにする。大会参加資格として練習時間に上限を設けるといったことも考えられる。さらに活動量を減らすだけでなく、1人の指導者が複数の部活動をオンラインで指導するなど、ITの活用も含めた指導の効率化を考える必要もある。

内田氏が今、最も懸念するのは「地域に移行したのに、指導者もメンバーも以前と同じという『看板の掛け替え』に終わってしまうこと」だという。そうなれば、部活動の魅力への陶酔、学校内の同調圧力によって、自主性が形骸化し、長時間練習への半強制的な参加になっている現状の課題は、地域活動にも引き継がれてしまう。

「私の個人的な見解だが、投入可能なリソースや、スポーツや文化を自主的に楽しむ活動という趣旨に照らせば、週3日くらいまでの活動とするのが妥当だと考えている。地域移行をきっかけに、部活動をやりたい子には機会を保障し、やりたくない子には強制されない自由を尊重して、リソースと活動量の帳尻の合った持続可能な形になってほしい」(内田氏)

小社の保護者アンケートは、まだ実態が見えない中で、地域移行賛成は4割にとどまったものの、教員の部活指導の負担を知っている保護者は7割に上った。内田氏が実施した教員を対象にした調査では、教員の約8割は地域移行に賛成で、とくに小学生以下の子どもが2人以上いる場合には98%近くにまで跳ね上がるという結果になっている。

最後に、内田氏は「自己犠牲を強いられてきた教員の労働環境への理解が保護者の間にも広がったことは大きな前進。さらに一歩進んで、教員もまた保護者の一人であるという現実に思いをはせていただけたら」と、保護者にさらなる理解を求めた。

(文:新木洋光、注記のない写真:danny / PIXTA)

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