「外国にルーツを持つ子ども」の支援と進学指導、学校教員だけでは限界も 外国人への「おもてなし」に問題がある理由とは

「この子はこんなに笑う子だったんですね」教員も驚き
YSCGSではオンラインでの遠隔授業をコロナ禍前から進めていたが、ここにきてそれがさらなる広がりを見せている。三重県教育委員会や愛知県名古屋市教育委員会などとも連携し、地域単位でのサポートを行っているのだ。「もちろん対面に勝るものはありませんが、その効果は子どもたちに対するものだけではありません」と手応えを語る田中氏。ある自治体との取り組みで、対象となる子どもの学校の教員が、一緒にオンライン授業に参加したことがあった。
「その先生は子どもが日本語を学ぶ様子を見て、『この子はこんなによくしゃべって、こんなに笑う子だったんですね』と驚いていました。その子どもは実は、先生が思っている以上に日本語が話せる子でした。でも教室ではなかなか発言する機会がなかった。先生は『この子が好きなものを初めて知ることができた』とも話してくれました。先生と子どもの距離が縮まったと感じてうれしかったですね。こうしたことを積み重ねて、学校全体が変わるお手伝いができればと思っています」
その「お手伝い」の一環として、YSCGSでは外国にルーツを持つ子どもの進学についてもサポートしている。
「日本の高校入試は非常に複雑なので、多言語によるサポートが不可欠になります。外国にルーツを持つ子どもの進学のしやすさや使える制度は自治体によって異なり、教員の方だけで完璧に指導するのは限界があると思います。ぜひ、私たちのように専門性のある団体と連携して取り組んでもらえたら」
教員がその存在を知らなかったために、使えたはずの特別枠を申請せず、外国にルーツを持つ子どもの入試が困難を極めた例もあったそうだ。田中氏は、さまざまな不利益を生む現在の状況について苦言を呈する。
「国が移民政策の基本指針を持たずにここまで来たことに根本的な問題があります。そのシワ寄せが子どもと教育の場に表れていると思いますが、学校の中退率や進学率は少しずつ改善されていて、例えば10年後はまったく違う状況になっていると思います。でもすべての人が外国人を前向きに受け入れるようになるとも思いません。個人的には、3世代にわたるぐらいの間は無理なんじゃないかな、と思っています」
「最大の壁」が崩れるまでには、まだ時間がかかるという見通しだ。ただしその態度が、現実に即したものであるかどうかは別の話でもある。
「日本に日本人しかいない時代はもう終わっているし、時代は動き出している。ここから先はもう、元に戻ることはないでしょう。だからこそ、私たちは感覚をアップデートする必要があります。外国にルーツを持つ子どもと一緒に学ぶことは、日本の子どもたちにとっても、多様性への感度を磨くチャンスになるのです」
(文:鈴木絢子、撮影:今井康一)
東洋経済education × ICT編集部
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