「外国にルーツを持つ子ども」の支援と進学指導、学校教員だけでは限界も 外国人への「おもてなし」に問題がある理由とは
こうした状況を見てきた経験から、同氏は、ロシアの軍事侵攻によって日本に避難してきたウクライナの人たちの今後についても危惧する。
「日本は難民認定が非常に少ない国ですが、ウクライナの人に対しては、初期にはとても熱心な関与がありましたよね。でも時間が経つとやがてそれも薄れていく。お客さん扱いの『おもてなし』がなくなったとき、外国にルーツを持つ人たちが自力でフルに社会参加するためのハードルが、日本はとても高いのです」
もちろん田中氏は受け入れ自体を批判しているのではない。ここまでできるのだという前向きな発見にもなったと言うが、一方でこれまで国内にあった差別が見過ごされてはならないと断言する。目指すのは、そうした子どもたちの心の基盤になる場所や、存在を支える「所属」を確保することだ。団体としての知見を生かし、子どもたちと学校の双方を支援することを、同氏は「学校にバトンをつなぐ」と表現する。
学校にも子どもにも寄り添いながら着地点を探る
具体的には、どのように地域の学校との協働を図っているのだろうか。
「まずは地域の学校の受け入れ環境を確認するところからです。日本語指導が必要な子どもなら、その学校に日本語学級などがあるかどうか。支援が乏しければYSCGSで日本語を学んでから学校へ参加する流れで調整します」
この日も、東京都福生市と足立区の教室を拠点に、対面とオンラインのハイブリッドで授業が行われていた。日中は主に日本語指導の必要な子どもたちが集まり、放課後には地域の小学校や中学校に通う子どもたちがやって来る。笑い声に満ちた教室内には複数の言語が飛び交い、「これは中国語で何て言う?」と尋ねる英語の質問も聞こえてきた。

田中氏は「自分の国から、命からがら逃げてきた経験を持つ子どももいます。彼らのトラウマをケアするべきなのはもちろんのこと、学校にとっても、彼らを受け入れることをネガティブな体験にさせないことが重要です」と語る。前例踏襲の傾向が強い学校は、未経験のことに対して非常に慎重だ。
「初めてのことに戸惑うのは当然のことですが、スムーズに進まないと『過去にトラブルがあったので』と、学校が受け入れを躊躇することになる。でも私たちのような第三者の介入によって、受け入れが円滑に運ぶこともよくあります」
例えば学校側の懸念として、宗教や文化的な違いから特別な配慮を求められることに戸惑う声も聞かれるという。これについては「現在は宗教・文化的な違いへの対応事例集が作成されたり、どのような点に配慮が必要かなどの情報がまとめられた冊子が国際交流協会などから公開されていたり、全国各地から知恵と経験を集めて対応できることも増えてきています」と言う。
「選択肢は1つではないし、『こうなんでしょう』と決めつけずに話してみれば、意外にすんなりいくことも多いのです。保護者側にも『そんなにかたくなにならなくても……』と伝えることもありますし、どちらの立場にも寄り添いながら着地点を探るようにしています」