子ども・若手教員にメリット大、富山県南砺市「全市でチーム担任制」の深い狙い 5年間で退職ゼロ「初任者教員の定着」でも成果

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前者の取り組みの1つとしてスタートした、市で最初の義務教育学校である「南砺つばき学舎」。同校では、夏休みを短縮することで6限の授業をなくすなど、独自のカリキュラム導入で、午後の時間に余裕が生まれた。そこで始まったのが「自学の時間」だ。子どもたちは週に2回、学年の枠を超えて、自ら選んだ教員や仲間と好きなことを主体的に学ぶ。内容は英語や音楽、ペーパークラフトからゴルフまでさまざま。「自学の時間」実施のきっかけは、中学校で教えてきた教員の「高校進学のとき、自分で志望校を決められない子どもが多い。やりたいことを見つけるきっかけになれば」という主体的な提案だった。

「現在、市内のすべての学校が地域ごとに学校評議員会を構成し、夏休みや冬休み期間を自由に設定するなど、特色ある教育実践を行っています。自分の地域の学校へ通うことが原則ですが、多様な子どもや保護者のニーズに対応するため、本年度から、すべての学校に『特認校制度(※)』を導入しました。公共交通機関の定期代も全額無償です」

次に部活動改革を見てみよう。過疎化により、市内の中学校では3学年合わせても単独でチーム編成ができない、吹奏楽部で合奏が成り立たないといった学校が出てきた。その原因を松本氏は「生徒数が減少しているにもかかわらず、各校の部活動の数が減っていないことにある」と指摘する。

そこで南砺市では部活動の拠点校化を進めることにした。市内の中学校にあるすべての部活動の種目を、市内のどこかの中学校に残せるように、部活動数を絞りながらバランスよく配置する。そうすることでチーム担任制と同じく「2、3人の教員でチームを作り、1つの部を担当できる」と言う。

「市では部活動を完全になくすことは考えていません。重要なのは部活動改革が教員の働き方改革だけを目的にしたものではなく、子どもたちのためだということ。それは先生方にも伝えています」

例えば、休日だけでなく平日も、教員の勤務時間を過ぎた後は、地域の指導者に引き継ぐことを検討している。また、小学生が所属するスポーツ少年団との連携を中学生の指導にも生かす「指導者団体組織の一本化」についても模索しているところだ。これらは小中一貫教育の考え方ともつながっている。市全体でスポーツや芸能文化活動を頑張ってきた小学生を、中学校の指導者に手渡す仕組みをつくる。それにより持続可能な生涯スポーツ・芸能文化活動の振興につながり、地域の指導者に教えてもらうことでふるさと教育の場にすることも狙っているのだ。

大学では幼児教育の研究も行ったが、小中学校の教員として20年以上実践を続けてきた松本氏。自身を「理論家ではない。予算のことなどは詳しくないし、市長が私に求めているのはそういうことではないと思うんですよね。やれることをやるだけです」と笑う。

「教育改革はまだまだ道半ばですが、各地域の教育のあり方は教育長が決めることでもないと思っています。保護者や地域の方々が何を望むか、それぞれの学校が短いスパンでつねに考え直し、柔軟に議論していくことが大切です」

※通学区域に関係なく、希望する市内の小中学校に就学できる制度

(文:鈴木絢子、注記のない写真:ばりろく / PIXTA)

東洋経済education × ICT編集部

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小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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