子ども・若手教員にメリット大、富山県南砺市「全市でチーム担任制」の深い狙い 5年間で退職ゼロ「初任者教員の定着」でも成果

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メリットばかりのように思えるが、松本氏の提案に対し、当初の現場の反応は芳しくなかった。

「先生の『そんなことしていいんですか? そんなの見たことがない』という第一声を覚えています。『私もまだ見たことないよ』と返しましたが、一方で『ああ、学校が硬直化している原因はこれではないか』と感じました」

松本氏は「学校は固定化したら終わり」だと断言し「学校や先生が主体的になり、創造性を持ってほしい。すべての学校や先生が同じである必要はないし、そうであるはずがない。均質化を求めずに多様性を認め合い、それを生かしてほしいのです」と続ける。

校長も一体のワンチームで、退職者を出さない学校に

同市のチーム担任制は4年目を迎えるが、1年目はとくに大変だったと松本氏は振り返る。校長会での説明を行うと、前述の「そんなことしていいんですか」のほかにも、さまざまな反対意見が挙がった。

「特別支援学級はどうするのか、責任感が薄れるのではないか、ベテラン教員の仕事が増えるのではないか――など。こうした意見を持っている校長先生のところには個別に学校に出向いて、直接話をして不安を解消していくことに尽力しました。その次は市PTA連絡協議会役員会での説明会です。『4教科(国語・算数・社会・理科)だけは1クラスで担任の先生に見てほしい』という声が強くあり、実技系教科や朝の会、外国語科や道徳科、学級活動などをチーム担任制にする現在の形が決まってきました」

現場や保護者の理解を得ることを重視してきた同制度。導入する教科などの大まかな方針は決まっているが、実は具体的な方法や実施状況は学校によってさまざまだという。松本氏は「先生方が『今より大変になる』と思うことはやらなくていい」と伝えてきた。

「広大な南砺市には、平地に位置する中規模の学校もあれば山間部の極小規模校もあります。気候や取り組む環境も違うのだから、カリキュラムも学校ごとに変えればいい。そのときそこにいる先生の個性、そこから生まれるアイデアはすべて学校の『資源』であり、学校ごとに違うのが当たり前。大事なのはその資源を最大限に子どもに還元することであって、型を作って従わせることではありません」

チーム担任制を早期に大きく取り入れた学校もあれば、少しずつ慎重に進める学校もある。その決定権は各学校にあるのだ。教育委員会が決めたことを学校に下ろし、校長がトップダウンで命じる方法は「主体的」ではない。

「校長先生にお願いしたいのは、先生方の提案を『いいね』と言って主体性を伸ばすこと。学校を、先生方が喜んで来られる場所にしていくことです」

南砺市のチーム担任制は単なる教員同士のチームではなく、校長を含めた学校全体がワンチームとなって取り組むものだ。この成果が最も顕著に表れているのは、初任者教員の定着率かもしれない。同市では松本氏が現職に就いた2019年から23年までに、68人の教員の新規採用を行った。そのうち退職した人はほとんどおらず、「年度末を待たずに退職した新規採用者」に限って言えばその数はゼロだ。

例えば東京都教育庁の発表によると、東京都では22年度に新規採用した教員2429人のうち、約4%に当たる101人が年度途中に自己都合などで退職している。分母が違うことを考慮しても、その差には数字以上のものがある。

相互に絡み合う「3本柱」で、地域の学校の魅力を伸ばす

南砺市の教育改革は、チーム担任制を含めた「3本柱」で行われている。残る2つは「地域基盤の小中一貫教育」と「市教委主導で行う部活動改革」だ。松本氏は「この3本柱は根を同じくしており、どれか1つを切り離すことはできない」と力強く答える。

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