暖冬の追い風もあり、懸念された昨冬のエネルギー危機を乗り切った欧州経済。ただコロナ、エネルギーのダブルショックの爪痕は深く、今後もまだ予断を許さない。
筆者は5月下旬、久々に欧州に出張し、多くの有識者と意見を交換した。この数年間、欧州は立て続けに苦難に見舞われた。2020年に生じたコロナショックでは、社会経済機能がマヒするとともに、南欧諸国の高齢者を中心に多くの人が亡くなった。さらに2022年には、ロシア発のエネルギーショックが欧州を襲った。
とはいえ、よほど目を凝らして探さない限りマスクを装着する人が見つからないなど、コロナショックに伴う社会的な混乱はすでに収束しているようだ。ロンドン、ブリュッセル、フランクフルトと回ったが、どの街並みもコロナショック前の活気を取り戻していた。一方、コロナショックは経済面で深刻な爪痕を欧州に残した。
欧州の労働市場を襲う構造的変化
具体的には、コロナショックにより、労働供給の構造的な減少が促された模様である。コロナショックは、もともとベビーブーマー世代が引退に差し掛かるタイミングで生じたため、そうした人々の労働市場からの退出を促したようだ。したがって、コロナショックに伴う社会的な混乱が収束しても、労働供給はなかなか回復していない。
このベビーブーマー世代の労働者のリタイアを受け、欧州各国はハイスキル人材の不足に直面している。暗黙知という概念が示すように、熟練労働者ほど知識と経験に基づく生産性の高さを持つものだ。そうした人材がコロナショック後に不足したことが人材獲得競争につながり、人件費の高騰を招く一因となったようだ。
加えて、人件費の高騰の観点からは、サービス業の雇用コスト(賃金)が、製造業に比べて顕著に伸びていることも特徴的である。コロナショックの中で積み上げられた過剰貯蓄と、サービス業に対する繰り越し需要に加えて、ロックダウンに伴うサービス業の供給力の低下が、サービス業の雇用コストを押し上げていると考えられる。
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