加賀市教育長・島谷千春、脱一斉型で「子ども主体の授業」じわじわ増やす仕掛け 「Be the Player」掲げる教育ビジョンの本意

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加賀市は14年、日本創成会議から消滅可能性都市である指定を受けた。1990年代に8万人いた人口が現在は約6.3万人、2040年には4.2万人とほぼ半減すると予測されている。高齢者の割合も年々増加し、次世代を担う若手労働者の不足なども大きな課題となっている。

「加賀市は温泉地で観光業や製造業が基幹産業ですが、消滅可能性都市である指定を受け市長が危機感を抱き、『スマートシティ加賀』をビジョンに掲げて行政のICT化などデジタル化が進んでいます。人口減少に歯止めをかけ、市として再生していくためには将来の地場産業としてデジタルを使いこなせる人材育成が非常に重要だと位置づけ、国の必修化より3年前倒しの17年度から市内の全小中学校でプログラミング教育を開始するとともに、これまでの画一的な教育から21世紀型教育に転換していきたいと。『教育は、未来への投資。人材育成は一丁目一番地。全面的に改革をしてほしい』という市長の強い思いを受け、マクロ的な視点も持ちながら教育改革を行っていくことが私の使命であり、真の意味での地方創生につながると考えています」(島谷氏)

課題は不登校、自由進度学習の導入で「学びを変える」

加賀市には、小学校が17校、中学校が6校存在する。

「2022年10月、教育長に着任してすぐに市内の小中学校を回りました。私塾や習い事の選択肢が都市部と比べて少ない地域では公教育への期待は大きく、先生方が『児童生徒の基礎学力をつけ、誰一人として授業を取りこぼさないようしっかり見ていこう』と、非常に熱心に教育活動を行う姿を目の当たりにしました。このような先生方の熱意や新しいことにチャレンジする前向きさをベースに、今求められている教育改革を具現化できる可能性を秘めた都市であることを再認識しました」と、島谷氏。

島谷氏が、今の教育のいちばんの課題と感じているのは「不登校」だという。国の調査では、不登校は「年間30日以上の欠席」とし小学生は10人に1.3人、中学生は10人に1.4人となっており、加賀市でも同様の傾向が見られるという。

「学校に行けても教室に入れない子、学校に行くのがしんどいと思っている子を含めると、児童生徒の1割以上が学校に拒否感を持っているという現状は、子どもの問題ではなく社会や学校システムの問題であると捉えています。『スクールカウンセラーを入れる』『別室登校の支援をする』など不登校対策だけをやっても問題は解決しません。子どもが長い時間を過ごす授業という中で、児童生徒の特性や能力を埋もれさせ、ついていけない子は疎外感を感じたり、わかっていないのにわかっているように装わなくてはいけないようなこれまでの一斉型のスタイルを変えていかないと」

そこで、これまでの「みんな一緒に同じことを同じ方法で学ぶ授業」から、「自分のペースで自分で学ぶ授業」への転換を図っている。その1つが、授業の進度を学習者が自ら自由に決める「自由進度学習」だ。

「22年度、まずは実践してみたい学校の先生に手を挙げてもらい、『子どもを主役にする授業』づくりを支援する教育推進プロジェクトマネージャーが先生たちに伴走しながら、授業を変える試みをスタートしました。さまざまな授業実践が続々と出てきていますが、例えば、あらかじめ先生から1人1台端末に送られてきた問いやヒント教材を基に、子どもは自分で計画を立てて個人で学習を進めたり、子どもによっては友達と協力して進めたりします。自由に動くことももちろんOKで、黒板を自由に使って子どもたちがそれぞれ考えた解法を議論しながらチャレンジ問題に取り組む姿も見られます。先生は一斉授業型では難しかった子どもたち一人ひとりの様子を見ながら声をかけて回ってフォローに入ったり、子どもが自分たちの力で取り組みたくなるような教材や仕掛けなどの環境設計をしたりする役割が大きくなります。実践したある小学校では、『自由進度学習』を取り入れたことで『学校が楽しい』と答える児童が増えました。

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