バブル後日本財政を「ちょうどよかった」例と見る 『21世紀の財政政策』など書評4冊

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ブックレビュー『今週の4冊』

 

[Book Review 今週のラインナップ]

・『21世紀の財政政策 低金利・高債務下の正しい経済戦略』

・『日本の電機産業はなぜ凋落したのか 体験的考察から見えた五つの大罪』

・『理由がわかればもっとおいしい! 発酵食品を楽しむ教科書』

・『文明交錯』

『21世紀の財政政策 低金利・高債務下の正しい経済戦略』オリヴィエ・ブランシャール 著
『21世紀の財政政策 低金利・高債務下の正しい経済戦略』オリヴィエ・ブランシャール 著、田代 毅 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)

評者・上智大学准教授 中里 透

予想外の物価高の中で忘れかけているが、コロナ前には低金利・低インフレ・低成長を基調とする長期停滞が、現実の問題として懸念されていた。

名目金利がすでに低く、利下げの余地がない中で低インフレやデフレが生じると、実質金利が速やかに下がらなくなる。経済全体の需要と供給をつりあわせる金利の水準(中立金利)よりも現実の実質金利が高いと慢性的な需要不足が生じ、経済の停滞が続くことになる。

こうした状況下で停滞から脱するには財政政策に頼らざるをえないが、本書はこの問題を体系立てて考えるうえで有益な示唆を与えてくれる。

バブル崩壊後の日本財政を「ちょうどよかった」例とする

財政出動をめぐる議論にはつねに財政破綻の話がつきまとう。だが、財政赤字は一般に考えられているほど「危険なものでもコストのかかるものでもない」と著者は言う。安全資産(国債)の金利が経済成長率よりも低い場合には、財政赤字の拡大によって政府債務残高対GDP比が際限なく膨らんでしまう可能性は低くなり、財政赤字が経済厚生に与えるマイナスの影響も抑えられることになるからだ。

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