山形・天童中部小学校「3つの型破りな授業」で子どもが自らぐんと伸びる訳 大谷敦司・前校長「子どもは有能な学び手」
現在は実技教科以外のすべての教科が対象で、各学年でばらつきはあるものの年間100時間くらいを「自学・自習」の授業で行う。あるクラスでは「自学・自習」の授業をタブレットで録画して、出張中の担任に「こんな授業をやりました」と配信するクラスもあるほどだ。また1年生が6年生の授業を見学したり、隣のクラスを見学して学び合ったり、「次はもっと面白くしよう」と子どもたち自ら授業に改善を重ねていく。
学び方を学ぶ、単元内自由進度学習「マイプラン学習」
2年目から始めたのが「マイプラン学習」。学びのゴールを決めて、自分で計画を立て、自分のペースで学習をする単元内自由進度学習だ。
これは学期ごとに15時間程度、1年で約50時間行っている(1年生は2学期開始で年2回の30時間程度)。学習が始まれば基本的に教員は口出しをしないものの、その前に子どもが必要なプリント教材などをまとめて準備するため、ゴールデンウィークや夏休みといった長期休暇明けの時間に余裕があるときに行うことが多い。
学年の担任全員が協力して10〜20時間分の教材を作らなければならないため、大きな学校ほどメリットがあるという。天童中部小学校も児童数約700人の大規模校だが、新採の先生の育成やICTが苦手な先生をフォローできるなど、OJT(職場内訓練)の強化や働き方改革での効果も見込んで取り組み始めた。実際、先生同士の学びやコミュニケーションにも役立っている。
「2つの教科を組み合わせて単元を作り、2教科の学びを並行して進めます。年間計画を立てる段階で、どんな組み合わせなら効果があるか考えておき、近くなったところで、子どもたちの学びの様子から具体的に単元を作ります。例えば3年生では、国語の詩と理科の磁石を組み合わせました。コツは実験のような活動的な学びと、机上で行う静の学びのように違うタイプの学びを組み合わせること。子ども一人ひとりが、自分はどんな学びが得意なのかを体験することが大切ですから。子どもたちには『学習の手引き』で、それぞれの教科に取り組む目安の時間や学ぶための多様な教材を提示しますが、理科が得意だから理科を5時間にして苦手な国語をたっぷり10時間やるとか、自由に変えて構いません」
子どもたちにすべてを任せてしまうと、得意な教科ばかりをやったり、あるいは怠けたりする子も出てくるのではないかとつい懸念してしまう。先生が教えたからといって、みんなが十分に理解できるわけでもないが、学習に遅れが出たりすることはないのだろうか。
「いちばん大変なのは『子どもだけでは学べないのでは』と考える教員の意識改革です。子どもたちは有能な学び手なので見通しを持てれば、きちんと計画を立ててやります。必ずしも全員がうまくいくわけではありませんが、思ったように学べなかったとき、自分の計画がいい加減だったからとか、サボッたからと自覚するのと、教え方が悪かったからと先生のせいにするのとでは、どちらが次につながるか。自分の学びに責任を持つことが大切なのです」
「マイプラン学習」の様子を見てみると、楽しそうに実験を行う子、寝転びながらノートを取る子、友達と頭を突き合わせて教科書を広げる子などさまざまだ。教室だけでなく、どこでどんなスタイルでやってもいいから、社会の勉強をするために理科室に行って、資料をテーブルいっぱいに広げて学ぶ子もいる。

「ある子は『てこの実験』で、等距離に物を吊るして重さが等しいと水平になるかどうかを調べるために3セット分の分銅を使って試していました。通常は1セットでやりますから、普段の授業でやられると先生は困ってしまいますよね。でも私は、これでもかとしつこく調べた子どものほうが、学びが深いと思いました。中には、小学校の学習の枠を超えて文献を調べたり、ネットで検索したりしてどんどん先に進む子どももいます。こういう姿を見ていると、われわれが狭い枠組みの授業をすることで伸びる子の芽を潰しているような気もします」