教員「精神疾患で休職」過去最多、心のケアの現場も「深刻な人手不足」に警鐘 意外と知られていない「復職支援」の存在と効果
とはいえ国や都道府県が動くのを待っていても、現状は変わりません。学校現場でできることとしては、やはり管理職の役割が大きくなってきます。まずは、機会があるごとに教育委員会などに対して、「人が足りない。人をください」という声を上げ続けてほしい。また特定の教員に業務が偏らないように、労務管理にも気を配っていただきたいです。
ただ気の毒なのは、その管理職自身も厳しい労働環境に置かれていること。とくに教頭先生が多くの庶務を担っているケースが目立っており、残業時間も教員の中で飛び抜けて多いです。また、コロナ禍以降は職員の出欠問題があり、時間割を管理する教務の先生も業務が増えてかなり疲れていらっしゃいます。こうした先生方の仕事を減らすためにも事務を担ってくれる方の増員は必要だと思います。
――やはり学校現場だけでできることには限界があるように思えてきます。
私は、教員の誠意に甘える形で学校が成り立っている状態についても、変えていく必要があると思っています。多くの教員はとてもまじめで責任感が強く、理想や使命感を抱きながら働いています。そうした教員に対して、殺し文句となるのが「これをやると子どもたちのためになる」という言葉。これを言われると、教員は自分を犠牲にしてでも頑張ってしまいます。保護者の中には「子どものためになるのに、なぜやらないのですか」と要求してくる人もいますが、それが教員を追い詰めてしまっている面があります。
例えばお店であれば営業時間、病院でも基本的な診療時間が決まっていますが、教員は「子どものために」という理由で、夜間や休日まで生徒指導や保護者対応を求められることがあります。また、警察に相談すべきトラブルが起きても、学校は子どものことを考えて通報することをためらう風土もあります。
こうした現状を変えるには、できれば文科省、少なくとも県市町村の教育委員会レベルで、「教員の責任の範疇、仕事の範囲はここまで。それ以外のことは教員の生活やメンタルを守るために応じられない」という線引きをはっきりと地域や保護者に対して示すべきです。校長先生が役割の線引きについて懸命に発信されているケースもありますが、地域によっては学校が批判を受けてしまいます。地域の側も、教員に必要以上の誠意を求める風潮を改めるべきではないかと思います。
「24時間教師」をやめて「ただの人」になる時間をつくる
――井上先生は、メンタルヘルス不調が原因で休職している教員へのリワーク(復職支援プログラム)を実施しています。その内容について教えてください。
当院のリワークは、症状がある程度回復した教員を対象に、復職準備性と再発防止能力の向上に力を入れており、職場復帰に向けて生活リズムなどを整えていただくとともに、授業を模擬的に実施したり、自分の心の中を見つめて整理することに取り組んでもらったりしています。自分がいつどんな状態のときに心が折れ、休職に至ってしまったのかを理解しておくことは、いわば自分自身の「取扱説明書」を手に入れることでもあり、復帰後に再休職をしてしまうリスクを抑えることができます。

公立学校共済組合近畿中央病院 メンタルヘルスケアセンターおよび大阪メンタルヘルス総合センター 副センター長・主任臨床心理士
神戸大学大学院文学研究科心理学専攻を修了。児童相談所、総合病院勤務を経て、近畿中央病院へ赴任。教職員のメンタルヘルスに関わり、個人カウンセリング、メンタルヘルス相談、講演のほか、600名以上の教員のリワーク(復職)支援プログラムに携わってきた。著書に『教師の心が折れるとき―教員のメンタルヘルス 実態と予防・対処法―』(大月書店)など
(写真:本人提供)