ミラーニューロンの反応が強く感受性が豊か

HSPは感受性が強く、あらゆる刺激の影響を強く受ける気質だ。そのため、ふとした出来事に心を大きく揺さぶられたり、何げない発言に深く傷ついてしまう。置かれた環境によっては生きづらさとも感じかねないが、一方で、豊かな感受性を武器に大いに活躍できる存在でもある。

とも
公立小学校教員
大学卒業後、勤務していた公立小学校を一度は退職。 休職後は私立小学校を経て再度、公立小学校に復職した。 Twitterアカウント「とも・HSP教員」にて『人間関係で苦しまないジブン作り』を発信する
(画像:本人提供)

公立小学校の教員でHSPを自認している「ともさん」。児童・生徒時代を振り返り、「授業中に先生から指名されると緊張で喉が詰まってしまい、当てられるだけで泣くような子でした」と語る。引っ込み思案だった「ともさん」が教員を志したのは、ある先生の言葉がきっかけだった。

「中学校3年生の担任が、『とも君は誰よりも全体をよく見ることができるから』と僕を卒業イベントの司会に推薦してくれたんです。『司会に必要なのは、話す力より周りを見る力だ』と言われ、『自分にはそんな長所があったのか』と気づかせてくれた先生に強く憧れました。それ以来、ずっと教員を目指してきたんです」

現在「ともさん」はSNSを通じて「人間関係で苦しまないメンタルづくり」について発信したり、同じHSPの教員やHSC(Highly Sensitive Child/ハイリー・センシティブ・チャイルド)の児童・生徒を支援するなど、幅広く活動している。

HSPの気質が垣間見えるエピソードだが、ここでいま一度、HSPの特性を詳しく見てみよう。HSP研究の権威である、心理学者エレイン・アーロン博士の専門家認定プログラムを日本人で初めて修了した、HSPカウンセラー・HSP専門キャリアコンサルタントのみさきじゅり氏は次のように説明する。

みさきじゅり
HSP専門キャリアコンサルタント・HSP映画コーディネーター
自身もHSS型HSPを自認している
(写真:本人提供)

「HSPの人は感受性が非常に豊かで繊細で、また傷つきやすいです。人それぞれ程度は異なりますが光・音・言動などの刺激を受けやすく、ささいなことがとてつもなく気になる傾向にあります。これには、ミラーニューロンという脳内の神経細胞が関係しています」

ミラーニューロンには、他者の動作や感情を鏡(ミラー)のように自身の脳内に反映させる働きがあり、模倣や共感力にも影響する。脳神経の研究ではHSPの場合、このミラーニューロンの活性が一般より高いことがわかっており、同じ情報量でも通常より強い反応になるという。また、HSPがうつうつとしやすいことも認められている。自律神経を整える神経伝達物質である「セロトニン」を活用しにくい性質があるため、ストレス下で安心や落ち着きを得るまでに時間がかかったり、リラックスすることを難しいと感じるケースが多いのだそうだ。

HSPが持つ4つの特性と、得意分野・苦手分野

実は、HSPには物静かな人もいれば、コミュニケーション能力が高い人もいる。しかし、そのどんなタイプにも共通するとされるのが、「DOES/ドーズもしくはダズ」と呼ばれる次の4つの気質だ。

・深く処理する(Depth of Processing)
・神経の高ぶりやすさ(Overstimulated)
・感情反応や共感力が強い(Emotional Intensity)
・ささいなことを察知する(Sensory Sensitivity)

これを見て、「自分にも当てはまる」と思った人もいるかもしれない。HSPは障害や精神疾患とは異なるため医師の診断を必要とせず、セルフチェックで判断する。

「エレイン・アーロン博士のセルフテストは、信憑性があると思います。27の質問でHSPの可能性があるかどうかを知ることができますよ。HSPの日常的な感覚の例では、植物を見るだけで愛情が全身を駆け巡り、新芽が出るとまるで自分の子どもが生まれたかのようないとおしさを感じることもあるのです」(みさき氏)

みさきじゅり氏の著書では、HSPの特性やタイプが説明されている
(撮影:梅谷秀司)

ほかにも、叱られている人を見ると自分まで叱られている感覚になってしまい、ショックや恐怖でその場所を避けたいと感じたり、その光景が何度もフラッシュバックしたりする。また、光や音、においなどの刺激にも強く反応するため、職場のコピー機が動くと終始その音を聞き込んでしまったり、トナーのにおいが気になったりしてしまう。こうしたHSPの特性は強みにも弱みにもなりうるが、その命運を左右するのは人間関係を含む環境要因だとみさき氏は指摘する。

「環境感受性の研究によると、HSPは主観的に『自分によい影響を与える環境』では、こまやかさや予見的な面を生かして活躍することができます。ところが、主観的によくないと感じている環境においては、HSP独自の特性を発揮できなくなってしまうのです」

例えば、誤字脱字や異変の発見、リスクの提言や想定問答集の作成、人間関係の調整などは得意で、察知能力や気配りにおいて高い評価を受ける傾向にある。しかし一方で、無意識下でもつねに周囲にアンテナを張っているため、本人も気がつかないうちに疲弊していることが多いのも事実。それでも、「考えすぎじゃない?気にしすぎだよ」と言われて傷つくのを避けたい気持ちや、迷惑に思われたくないという一心で、人に悩みを打ち明けられないことがほとんどだそうだ。

「『いつも一定の水準で頑張らなければ』と自分自身のハードルを上げてしまうため、疲れたまま無理をし続けていることも。ある日突然電池が切れて、休職してしまうケースも見られます。人には調子の波がある、という点を自分も周りもよく理解しておいてほしいです」

職員室は「刺激が多い」、教員同士の人間関係にも悩み

タスクや悩みを1人で抱え込み、燃え尽きやすい傾向にあるというHSP。とくに教員は、自分の理想の教育像と現実とのギャップに苦しむことが多いとみさき氏は言う。

冒頭で紹介した「ともさん」も、繊細な性格に起因して教員同士の人間関係になじめず、一度は教職を退いた経験を持つ。もちろん児童はかわいく、長年憧れていた仕事だけにやりがいを感じていたが、神経をすり減らす出来事も多かったそうだ。

「例えば、児童同士がけんかした際に保護者から『先生の対応に問題があった』と指摘されたことがありました。自分を責めて、2カ月、3カ月と引きずってしまって……。似た状況になるとフラッシュバックして、『今回もああなるのでは』と悪い想像を広げていました。管理職も、しんどいときは相談するようにと言ってくれていましたが、つねに忙しそうな様子を見ると声をかけられませんでした」(ともさん)

新人の頃は先輩から連日「君の授業はここがいけない」とダメ出しを受けた。「今思うと、確かに力不足でした」と振り返るが、弱点や欠点を赤字で箇条書きにして渡されるなど、指導とわかっていてもやはりひどく落ち込んだという。

職員室の環境も苦痛なものだった。例えば、ある先生がその場にいない教員の悪口を話していた。しかし、いざ該当の教員が来ると何事もなかったかのように接する。こうした光景を目撃して心が冷えたという。「自分も同じように陰口をたたかれるのでは」という懸念がちらつき、同僚にも自分の悩みを打ち明けられなくなった。

そしてある時「ともさん」は、まだ人の残る職員室で説教を受ける。相手の立場が強くて同僚も止めに入れず、結局説教は2時間も続いた。そこでついに、「ともさん」は限界を迎えてしまう。ずっと志してきた仕事なのに、いとも簡単に心が折れた自分に絶望したという。

精神疾患を患って休職し、一時はどん底の生活を味わった「ともさん」。しかし、「次無理だったら、もう教員を辞める」と覚悟を決めて、教科担当制の私立小学校に再就職した。そして見事に完全復帰を果たすのだが、その理由は「自分のマインドが変わったからではなく、環境が変わったから」と「ともさん」は言う。先輩教員は「ともさん」のよい面にも着目してくれ、ミスがあっても一緒に解決してくれた。別の学校に移った現在も、保護者の言葉に傷つくことはあっても、同僚との人間関係は良好で居心地もよいそうだ。

「HSP=甘え」は間違い、精神論で片付けず理解ある社会へ

「自分が引きずるタイプなので、児童にもここぞというときでないと強く叱れません」。今も悩みは絶えないが、子どもたちの様子をよく観察するのが得意とあって、通知表の所見欄は書く内容に困らないという。日常的にもささいな変化や行動に気がつくため、「あいさつの声がいつもより大きかったね」「ゴミを拾ってくれていたね」と、発見を付箋に書いて児童のいすに貼るのが日課だ。「児童の成長を目の当たりにした瞬間は、教員をやっていてよかったと心からやりがいを感じます」。今、「ともさん」はHSPの強みを十分に発揮している。

HSP専門キャリアコンサルタントとして、教員からの相談も多数受けてきたみさき氏は、自分がHSPかもしれないと思った教員は、次のことを心がけてほしいと話す。

「大事なのは『線引き』です。児童・生徒や保護者に心ない言葉をかけられることもあるでしょう。指導の観点からその不適切な発言を追及するのも教員の役割かもしれませんし、保護者の声に寄り添いたい気持ちもあると思います。でもそれは、必ず自分の心のケアとセットで考えてください。相手の言葉を自分の中に『取り込む』のか『取り込まない』のか、自分の心を守りながらどこまでどのように接するか、その線引きをポリシーとして決めておくことが大切です。業務や担当範囲も明確に線引きして、オフの時間に良質な休養を取ることも重要です」(みさき氏)

HSPは、刺激を受け止めるネットの網目が一般より細かいイメージだ。例え意思に反していても、どうしても一度は気がつき、受け止めてしまう。その上で、自分の中に取り込むかどうかを改めて判断することが大切だ
(写真:buru / PIXTA)

HSPに対してはどのような配慮が必要なのか。みさき氏は、「HSPのすべてを理解してもらうのは難しい。でも甘えや根性論で片付けるのは時代遅れです。まずは、生まれ持った感受性の度合いは人それぞれ違いがあることを知ってほしい」と話す。また「ともさん」は、体制の工夫次第でHSPが教育現場で活躍できる場が広がると考える。

「HSPの教員は子どもの相談窓口になれると思います。小学校はクラス担任制のため、担任以外の先生がクラスを見る機会が少ない。ただ、HSP教員は悩みを抱えている子を見つけるのが得意なので、例えば複数の担任でチームを組んで役割分担をし、HSP教員は生徒のメンタルケアを担当する体制はよいかもしれません。その際は、担当業務として正式に割り当ててほしいです」(ともさん)

挫折を乗り越え、教員としての自信をのぞかせる「ともさん」。最後にHSPの教員へ、こうメッセージを送る。

「HSPの教員は全国にいますし、1つの学校にも数人いるはずです。僕がいちばんしんどかった時期は、SNSでの共感にも救われました。あなたの周りにもきっと、同じ悩みを共有できる人がいます。決して一人じゃないということを忘れずにいてください。私たちはつい、つらいのは自分が弱いからだと考えてしまいます。しかし、自分が何も変わらなくても、環境さえ変われば一気に好転することもあります。今がしんどいからといって、自分が教員に向いていないとは思わないでほしいです」

(文:末吉陽子、注記のない写真:USSIE / PIXTA)