ギフテッドではなく「特異な才能のある子」、個別最適な学びの中で支援へ 文科省23年度予算案で8000万円を計上したワケ
才能教育の先進国である米国では、これまで飛び級・飛び入学のほか、知能だけではなく創造性、芸術、リーダーシップ、特定の学問のいずれかで並外れた能力・特性を示す子どもに個別の教育機会を与える才能プログラムや、トップ学力の子だけを集めて英才教育を行う学校など、さまざまな形で才能教育を行ってきた。
ただし、才能の定義や識別基準はプログラムが収容できる人数次第で恣意的に変わることがあり、才能プログラムの対象者は州や地域によって1%以下から十数%まで大きな幅がある。
「米国では現在、州・地域のプログラムが充実しているか否かで、潜在的な才能がどれだけ多く見いだされるかは変わってくるうえに、特別な才能プログラムの対象者が社会経済的に偏っていて不公正という指摘があり、公立校ではインクルーシブ教育が推進されるようになっています。また、ニューヨーク市やシアトル市などでは、才能児、2E児をギフテッドとラベル付けするのをやめ、Advanced Learner(アドバンストラーナー、卓越した学習者)という呼び方に変える動きが出ています」
日本も国立研究開発法人科学技術振興機構の「ジュニアドクター育成塾」や文科省の「スーパーサイエンスハイスクール」など国が推進する才能プログラムがいくつかある。しかし理数分野に偏重していたり、特異な才能をIQ130以上と仮定したり(総合科学技術・イノベーション会議「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」〈2022年6月〉)しており、才能の捉え方、育て方が狭窄(きょうさく)している。
しかも、22年9月には国連の障害者権利委員会が日本政府に対し、知的または心理社会的障害のある、より集中的な支援を必要とする子どもたちを分離した特別支援教育を中止し、質の高いインクルーシブ教育に関する行動計画を採択するよう勧告した。
「障害のある子も、才能のある子も、通常学級でインクルージョンの方針で教育していこうというのが、世界的な潮流です。そのうえで、理数分野であるとか、表現力や創造性といった分野で特定の才能を伸ばすなどの目的に沿って、一部の子どもに才能教育プログラムを提供すればいい。才能を識別、選抜する方法もIQなど、どこでも一定の数値で線引きするのではなく、個別プログラムごとに要求される特定の力を評価するべき。そうすれば、どの子も個別最適な学びの中でそれぞれの能力を伸ばして輝くことができるはずです」
注目のインクルーシブ教育を具体的に推進するSEMとは
こうした特定の基準で対象者を選抜する「狭義の才能教育」に対し、すべての子どもが対象者となる「広義の才能教育」のあり方として松村氏が提案するのが、才能教育実践研究の第一人者、ジョセフ・レンズーリ教授(米コネチカット大学)が開発した「SEM(Schoolwide Enrichment Model、全校拡充モデル)」だ。
SEMでは、子どもの才能を伸ばすカギは「普通(平均)より優れた能力」「創造性(創造的に考え工夫する力)」「課題に対する傾倒(課題をやり通す力)」の3要素だと考える。これらを育み伸ばすために、学校ぐるみで通常学級をベースに各児童生徒の学習進度や学習方法などに合わせて個別化指導・支援を行う。